本研究は,カーボンナノチューブ(以下,CNT)を混和したセメント系材料(以下,CNTCM)に関し,施工性や実構造物に適した力学性能,圧電センサとしての性能を両立するCNTCMを実現することを目的としている。2023年度は2022年度に引き続き,①CNTCMの電気化学的特性を改善する適切な調合,②CNTCM硬化体の物性に影響を及ぼす要因の同定,③画像相関法を用いたCNTCMの圧電メカニズムなどの把握を目的とし,以下の成果を得ている。 ①CNTCMのインピーダンス測定を行うことで,系全体の導電率に対するCNTの寄与度やCNT分散状況を評価した。その結果,系全体の導電率に対するCNT混和量のパーコレーション閾値が存在することを確認した。 ②CNT混和量がCNTCM硬化体の物性(強度,乾燥収縮特性)に及ぼす影響について,CNT混和により圧縮強度は増進するが混和量との線形関係にないこと,割裂引張強度は低下することを示した。また乾燥特性については,40%RH以下の環境ではCNT混和量が多いほど質量低下率が大きくなった。既往研究やSEM観察の結果などから,CNTの凝集体によって形成される疑似空隙に水がトラップされ,その水は低湿度環境で蒸発しやすいため,CNTを混和していない試験体に比べて大きい質量低下が生じたとの仮説を得た。この仮説については今後の実験で検証予定である。 ③これまでの検討から,CNTCMの載荷に対する電圧応答はセメントペースト破壊時や骨材/セメントペースト界面破壊時に発生すると考えられた。載荷に対する電圧応答を測定するために,単一の石材を埋設したシリンダ型のセメントペースト試験体の繰返し載荷時に画像相関法を適用し,試験体表面に発生するひび割れや剥離と電気的応答(電圧,電流)との相関を確認した。しかし,一度発生したひび割れに関してはその後に載荷を繰返しても相関が明確な電圧応答が見られず,センサとしてのCNTCMではひび割れの進展の把握が困難である可能性が高い。
|