研究課題/領域番号 |
21K04356
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
多幾山 法子 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 准教授 (10565534)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 既存木造建物 / 耐震補強 / アラミド繊維シート / 根継ぎ / 内挿格子壁 / 構造調査 / 振動特性 / 実大架構実験 |
研究実績の概要 |
本研究課題は,既存木造住宅に対する被災前後での防災対策として「簡便であること」に重点を置き,劣化部材の交換,接合部や躯体の耐震性能の向上,被災後の建物安全性の仮判定ツールの構築等を目指し,実大架構実験や構造調査等の多角的な検討を行うものである。 まず,劣化部位の簡便な修復方法として柱の根継ぎに着目し,工務店や実務者を対象としたアンケート調査を実施し根継ぎの施工実態を理解した。次に,複数の柱で根継ぎが行われている実建物において継手の実測調査を実施し,既往の理論式に基づいて根継ぎを施した架構をモデル化し,増分解析および振動解析を通じて,躯体における根継ぎの設置率と躯体の振動特性の変化を分析している。本成果は審査付き論文に投稿すべくまとめている最中である。 また,せん断力の不足する建物を簡便に補強する方法として,無等級区分材である地場産の間伐材等で造られた木格子を既存架構に内挿する方法に着目し,検討の初段階として,等級区分材を用いた実大全壁および垂壁架構の倒壊実験を実施し,その成果は発表論文として公表済である。 さらに,新素材のアラミド繊維シートを用いた補修・補強を施した柱-土台接合部の要素実験として,曲げ試験および柱引抜試験を複数実施し,耐力と変形性能の向上を目指した様々な検討を行った。シートの剥離性状を利用した貼付方法の改良提案をし,曲げ挙動および柱引抜挙動に関する解析モデルを構築した。本成果は,発表論文として公表済である。また,これらの一部は審査付き論文として投稿済である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ウッドショックの影響を受けて架構試験体の入手が遅れたが,他の計画と前後させることで,年度末までに全体の進度を調整でき,概ね計画通りに進んでいる。本研究において達成目標としている4項目についてそれぞれ進捗を示す。 (1)根継ぎと建物全体の地震時応答の関係性の定量化:工務店を対象としたアンケート調査や実建物における根継ぎの実測調査を実施し,これに基づいた数値実験を実施した。現在,審査付き論文に投稿すべく成果をまとめている。 (2)既存架構に木格子を内挿することで,耐震性能の向上を図ること:実大全壁架構および垂壁架構の静的加力実験を実施し,解析モデルを構築し,そのシミュレーション結果を発表論文として公表済である。また,今後の垂腰壁架構および腰壁架構の設計,および,地場産木材の入手は完了している。 (3)アラミド繊維シート補強を施した接合部の耐力および変形性能の向上:複数の要素試験体の曲げ実験や柱引抜実験を実施し,補強方法の改良提案および解析モデルを構築し,発表論文として公表済である。 (4)特性の異なる躯体の連成を考慮した地震応答の推定が可能な手法の提案:基盤となる構造調査を複数実施し,データ収集をしている。
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今後の研究の推進方策 |
研究全体としては,令和3年度の継続研究として取り組む。 まず,根継ぎと建物全体の地震時応答の関係性を定量化するため,既往の理論式に基づいてモデル化し,数値実験を実施しているが,今後は接合部の要素実験を実施し,この裏付けを取る。 また,内挿格子壁による簡易耐震補強方法の性能確認のために,等級区分材の実大垂腰壁架構および腰壁架構の静的加力実験を実施し,無等級区分材である地場産木材の製材・乾燥を行い,同様の実大架構実験を実施するとともに,多数の地場産木材の材料試験を実施し,材料特性値をマッピングする。また,これまでに構築した解析モデルを用いて,シミュレーションを実施し,期待できる耐震性能の向上の程度を示す。 さらに,アラミド繊維シート補強を施した接合部の耐力および変形性能の向上を目指し,更に施工性の高いシート貼付形式を提案し,要素実験を通じて,より性能の安定する方法に改良する。同時に,アラミド繊維シートの剥離特性を利用した改良後の補強法を応用し,被災時の簡易な建物安全性の仮判定ツールを構築することを目指す。 最後に,段階的に耐震補強を進める建物や,増改築を行う複数の建物の構造調査を通じて,特性の異なる躯体の連成を考慮した地震応答の推定が可能な手法を提案する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍におけるウッドショックの影響で木材で造られた試験体が高く,購入する試験体数を調整したため,ちょうどの使い切りができなかった。残額118円は,次年度の試験体購入において活用したい。
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