本研究課題は,既存木造住宅に対する被災前後での防災対策として「簡便であること」に重点を置き,劣化部材の交換,接合部や躯体の耐震性能の向上,被災後の建物安全性の仮判定ツールの構築等を目指し,実大架構実験や構造調査等の多角的な検討を行うものである。 (1) 劣化部位の簡便な修復方法として柱の根継ぎに着目し,アンケート調査や実建物の実測調査を実施した。また,根継ぎを施した架構の増分解析および振動解析に基づき,躯体における根継ぎの設置率や配置,躯体の振動特性の変化を分析した。(審査付き学術論文として公表済) (2) 込栓留めの柱-梁接合部を対象の要素実験に基づき,仕口の面外曲げ性状の評価方法を提案した。更に,二方差し接合部の要素実験に基づき,水平剛性の推定手法を提案した。関連して,剛床仮定が成立しない不整形既存木造住宅の常時微動計測結果をまとめた。(発表論文,審査付き学術論文として公表済) (3) 耐震性の不足する既存木造住宅を簡便に補強する方法として,木格子を既存架構に内挿する方法に着目し,これまでに複数の架構の実大架構実験を実施してきた。周辺架構による拘束条件に応じて格子の破壊メカニズムが異なる可能性が考えられたため,当該年度では腰壁試験体を対象に,格子外周を囲む部材の曲げ剛性をパラメタとした追加実験を実施した。(発表論文として公表済) (4) アラミド繊維シートで補強した柱-土台接合部の曲げ試験を複数実施した。シートの剥離性状を利用して提案されたスプリット状貼付形式を採用すると変形性能は向上したものの,解析モデルにおいて分割されたシートごとに設ける集約線の位置が不明確であり,精度良く評価できなかった。先行研究ではシートと組紐を併用する形式を提案し検証してきたが,当該年度は組紐間隔をパラメタとした要素実験を実施した。(発表論文,審査付き学術論文として公表済)
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