本研究では,2021年度から2022年度にかけて,合成梁(鉄骨梁とコンクリート床スラブを一体化させた梁)を持つ部分架構が2方向の水平力を受けて大変形域で耐力劣化する挙動を実験的に把握した.さらに,2022年度には,この実験結果を再現するための解析モデルを提案した.この提案モデルは,従来モデルとは異なり,正曲げを受ける際のコンクリート床スラブの損傷に起因する耐力劣化を考慮できること,直交2方向の合成梁の損傷が互いに影響することによる耐力の相関を考慮できることの2つの特徴を有している. 2023年度は,それまでの成果を踏まえ,提案した解析モデルを用いた地震応答解析を実施し,合成梁の耐力劣化挙動が鋼構造建物の倒壊挙動に及ぼす影響について検討している.主な解析パラメータは,合成梁の解析モデルの違いである.従来モデルと提案モデルに加え,提案モデルの直交2方向の相関を考慮しないモデルの3種類を用いている.非倒壊限界の指標として,倒壊までに吸収できるエネルギー量を用いて,地震応答解析の結果を考察した.解析結果より,提案モデルを用いた場合は,正曲げ側の耐力劣化を考慮したことで,従来モデルを用いた場合よりも合成梁のエネルギー吸収量が小さくなることから,骨組全体のエネルギー吸収量も低下した.また,提案モデルで直交2方向の相関を考慮した場合,無視した場合よりも耐力劣化が早まり,骨組全体のエネルギー吸収量が低下する傾向が認められた.以上より,限られた条件下ではあるものの,従来モデルが非倒壊性能を過大評価しており,提案モデルを用いることの有用性が確認された.
|