研究課題/領域番号 |
21K04364
|
研究機関 | 福山大学 |
研究代表者 |
都祭 弘幸 福山大学, 工学部, 教授 (20736714)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 高せん断応力度比 / 曲げ降伏型 / 曲げ性能 / ヒンジ領域 / せん断変形成分 / 端部トラス筋 / 主筋付着除去 |
研究実績の概要 |
せん断応力度比0.15(部材種別FAの上限値)に近い曲げ降伏型RC梁試験体(縮尺1/2)を3体製作し構造実験を実施した。3体の内訳は,従来梁1体(G0)と提案梁2体である。提案梁は,ヒンジ部に端部トラス筋を配した試験体(GT1),ヒンジ部の主筋を付着除去しせん断応力度が高い断面中央部を拘束した試験体(GC1)である。試験体の形状は,ヒンジ部において曲げ変形を卓越させるためにせん断シアスパン比3とした。 実験は片持ち梁形式とし,部材角を漸増する正負交番繰返し載荷を実施した。計測は,水平変位・曲率・せん断変形を変位計により計測したほか,主筋・せん断補強筋などのひずみを測定した。 実験による破壊経過は,いずれの試験体もほぼ同様であった。全試験体ともR=1/10まで曲げ終局強度計算値を下回ることなく荷重は安定していた。ヒンジ部の破壊性状を比較すると,従来梁は曲げ降伏後にせん断破壊したが,提案梁2体は大きなせん断亀裂は発生しなかった。 ヒンジ部のせん断変形成分の推移を比較したところ,いずれの試験体もヒンジ領域のせん断変形成分は部材角の増大に比例して増加するが,従来梁と提案梁で顕著な差が見られた。R=1/100まで従来梁G0とGT1の増加割合はほぼ同じ傾向であったが,GC1は増加割合がそれらの1/2以下であった。曲げ降伏(R=1/67)以降もG0は部材角に応じてせん断変形成分は線形で増えていくが,ヒンジ部を補強したGT1,GC1はその増加を著しく抑制することができた。 実験結果から,高せん断応力度比の梁において,端部トラス筋は曲げ降伏後せん断亀裂の拡大を抑制できること,主筋付着除去と断面中央部拘束の組合せはせん断変形成分抑制に顕著な効果があること,が確認できた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的である「せん断応力度比0.15(部材種別FAの上限値)に近いRC造梁の曲げ降伏後の履歴特性を改善」のために提案した,“端部トラス筋”による方法,“主筋付着除去と断面中央部拘束”による方法,の2方法を適用した提案梁の構造実験を実施した。 その実験結果の分析から,以下のことが確認できた。 端部トラス筋は,せん断ひび割れ耐力を高めるとともに発生以降せん断亀裂拡大を防ぐ働きがあり,その結果,せん断変形成分増加を抑制できる効果を有することが分かった。主筋付着除去と断面中央部拘束による方法は,梁端部以外のヒンジ部曲げひび割れ発生を抑制し,せん断ひび割れ耐力を高め,ヒンジ部コンクリートの損傷や主筋の付着割裂を防いだ結果,せん断変形成分増加を著しく抑制できる効果を有することが分かった。 以上のように,提案した方法が従来梁と比較して,破壊性状・変形性状ともに効果があることを定性的に明らかにすることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
高せん断応力度比となるRC梁に関して,曲げ変形が卓越すると考えられるせん断スパン比3の形状を持つ試験体については,構造実験により提案した配筋方法が当初想定した効果を有することが確認できた。 今後の研究課題は,同じような高せん断応力度比のRC梁で,せん断変形が卓越するようなせん断スパン比形状を有する試験体の場合でも同じような効果を発揮できるか,である。 2022年度の試験体は,せん断スパン比1.5を計画する。この形状では曲げ変形よりもせん断変形が卓越することが予想できるので,その設計・製作ではせん断変形を抑制するために効果的な配筋方法を検討・考案する。 提案する配筋方法が,前年度と同様に破壊性状や変形性状に効果を有するかを確認するために構造実験を実施し,そのデータを分析・解析して検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
鉄筋コンクリート造梁部材の試験体3体の構造実験における実験補助者への謝金を予定していたが,新型コロナウイルス感染症の影響により実施できなかったためである。また,聴講を予定していたコンクリート工学協会の年次講演会がオンライン開催となったためである。
|