鉄筋コンクリート造梁部材が曲げ降伏時に高せん断応力度比(昭和55年建設省告示1792号第4による部材種別FAの上限値τu/Fc=0.15程度)が作用する場合でも,せん断補強筋を増やすことによって付着割裂破壊を防止すれば限界変形角R=25×10-3rad.を確保する設計法が確立している。しかし,高せん断応力度が作用するRC部材は,曲げ降伏後にヒンジ領域のコンクリート損傷が激しくなり,せん断変形成分やスリップ変形の増加によりエネルギー吸収性能が低下する。この課題を解決するためにヒンジ部の簡易な補強方法として「端部トラス筋」を提案し,構造実験によりその効果を検証した。 最終2023年度は,主筋付着除去を省略した場合の履歴性状を検証すること,および端部トラス筋断面積の影響を検討するため,令和6年度と同じ試験体形状(せん断スパン比1.5)の試験体1体を製作し正負交番の静的加力実験を実施した。構造実験結果の分析,ヒンジ部のせん断変形成分増加が抑制され大変形まで安定した復元力特性が得られることが確認された。また,曲げ降伏以前ではせん断ひび割れ発生強度を上昇させる効果が,曲げ降伏後ではせん断ひび割れ発生本数を抑制できる効果が期待できることが確認できた。さらに,これまでの実験結果からヒンジ領域に配筋した端部トラス筋のひずみ測定結果とせん断応力との関係を分析し,梁部材の弾性域および塑性域における端部トラス筋の挙動・効果を明らかにした。また,弾性域における端部トラス筋のひずみおよび内部応力を推定する一般式を提案した。 本研究で提案した端部トラス筋は, (1)せん断ひび割れ強度増大,(2)せん断補強筋降伏の遅延,(3)ヒンジ部せん断力負担,(4)ヒンジ部コンクリート損傷抑制,(5)塑性率6以上の変形性能発揮,の効果が期待できることが確認された。
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