本研究では,COVID-19流行後の新生活様式における建築音環境改善手法として,研究期間全体を通じて,下記の課題について研究を行なった. (1) MPPを付加したパーティションの音響特性に関する研究 まず,孔のない単一板の両側にMPPを付加した3重構造を応用した,アクリル製卓上パーティションについて,室内実装時の音響的効果を実験的に検討した結果,残響の短い室では音声明瞭度に関する室内音響物理指標(D50)に,残響の長い室では残響感に関する指標(RT,EDT)に改善が見られた.次に上記のパーティションについて,吸音特性および音響透過特性に対するMPPの効果を理論解析によって詳細に検討した結果,MPPの付加によって共鳴透過が生じるため,パラメータによっては音声帯域付近に遮音欠損が生じることと,吸音・遮音効果に対する各パラメータの影響を明らかにした.前述の遮音欠損を利用すれば,適度な透過性によって,会話を妨げないパーティションを提案できる可能性を指摘した. (2) 自然換気機能を持つプレナムドアの遮音効果に関する研究 諸外国において自然換気の可能な遮音構造として,窓に広く応用されているプレナム構造を,ドアに応用することを検討した.まず,プレナム構造を利用したプレナムドアについて,実験的検討によってその遮音性能を明らかにした.開口を持つ構造であるため,開口のない通常の遮音構造には劣るが,ある程度の遮音性が得られることを示した.また,数値解析によって,その遮音特性に対する,各パラメータ,すなわち開口の幅,ドアの厚さ,などの影響を詳細に検討した.その結果,ドア厚さが小さい場合は,開口の幅が小さい場合に遮音性能が高いこと,内部を吸音した場合に特に顕著な遮音性が得られることを示した.さらに,内部の吸音処理として,MPPを用いることで,特定の周波数帯域における遮音性能の低下を改善できることを示した.
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