2023年度は,(1) 視覚情報を用いてターゲット音声の探索しやすさを向上するかを確認する実験,(2) 残響音の影響に関する実験,をそれぞれ実施した。 (1)の実験はVR技術を用いて実施し,仮想空間内に複数配置したスピーカのいずれかからターゲット音声が聞こえるようにシミュレートした。スピーカの上部空間にランプを表示してターゲット音声の到来方向を知らせる条件(視覚サイン有)と表示しない条件(視覚サイン無)の単語了解度を比較した結果,合計3言語の音声を1つのスピーカから同時に提示する条件では視覚サインありの方が単語了解度が上昇したが,その上昇量はわずかであった。 (2)の実験は実験室内で行った。分散配置した5つのスピーカから残響音を付加したターゲット音声およびその他の言語の音声を提示した。残響音の強さは,音声聴取に有効なエネルギーと有害なエネルギーの比をレベル表示した値であるC50を用いて制御した。同時再生する言語数が2の場合は騒音の影響と残響音の影響が同程度であったが,3の場合は残響音の影響が強くなり単語了解度が大きく低下した。 研究期間全体を通して,多言語一斉放送システムの高度化について以下を明らかにした。(1) 同時再生する言語数が2あるいは3の場合は最適化しなくても実用可能性があるが,4の場合はスピーカの分散配置,重要な情報を放送の後半に配置するといった方法による性能向上が必要である。(2) 周囲の騒音よりもターゲット音声を10dB程度大きくすることが望ましい。(3) 同時再生する言語数が3になると残響音の影響が大きくなる。
|