本研究は、現代を含む近代以降の港町に着目し、港町を空間および産業構造から生業的なものと国家政策的なものの間に揺れる実空間と捉え、「港」を産業基盤として陸域と水域を結ぶ都市・地域施設として、「港町」を施設としての港を中心に港に近接した産業従事者の居住地を含む生活圏域と定義し、①都市史研究から生活者(生業集団)による空間生成の応答を分析し、②水域と陸域を等しく対象空間として、空間の所有と利用の実態に迫り、③政策(狭義の計画)と生業(生活の実態)による空間形成を把握することで今後の生業空間更新計画論確立に向けた知見を得ることを目的としている。 本年度は、北前船の寄港地の空間変容動向の全体把握のために、フィールドワークを実施した。本年度は、近畿地方を対象に実施し、広域に分布する寄港地の市街地類型について考察を深めた。兵庫県の北前船寄港地津居山にて、北但大震災との関連から近代期を通じた震災の影響とその後の復興が港湾整備ならび生活空間の変容との関係を考察した。また近代期の都市改造の影響として京都府舞鶴を対象に近世城下町とそれに付随する港町が隣接する軍港都市との関係で現状までどのように変容したのかというインフラ整備に関する影響を把握した。また、文献調査を主体として北前船寄港地の都市形成に関するデータベースを作成し、各寄港地が北前船寄港地としての地理的立地特性とその後の産業構造の転換と港湾整備について整理と把握ができた。 また昨年度より個別事例として各地の名士とされる指導者層による政府への働きかけといった社会改善運動についても文献調査を進め、北前船寄港地衰退後の「裏日本」としての地政学的な概念形成ともに市街地形成に大きく影響している点と一部の北前船船主のその後の船舶・運輸関連事業への展開によって国策企業化していく流れ(さらには植民都市建設への関与)までを仮説として得ることができた。
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