研究課題/領域番号 |
21K04434
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
稲上 誠 名古屋大学, 未来社会創造機構, 研究員 (40597803)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 移動 / 環境の記述 / シークエンス / オプティカルフロー / 生態学的視覚論 |
研究実績の概要 |
令和4年度には,オプティカルフローを解析するソフトウェアの開発を行なった.オプティカルフローに関するライブラリーが用意されていること,画像やベクトルなどの行列データの処理が容易であることを考慮して,Matlabを開発環境として選択した.Matlabによる開発を専門とする業者に依頼し,動作の確認と機能の修正を重ね,ソフトウェアを完成させることができた.5種類のアルゴリズム(Farneback,Horn-Schunck,Lucas-Kanade,Lucas-Kanade derivative,Block Matcher)を実装し,各パラメーターを調整できるようにした.入力データとしては,360度の環境を撮影した正距円筒図法の動画を使用する.投影の歪みによる影響を除くため,フィボナッチ格子という手法により,解析する画素(オプティカルフローのベクトルの始点)を均等に分布させるようにした.出力データとしては,検出されたベクトルの数値データに加え,それらを重畳した動画ファイルが記録される. さらに,大学キャンパス内で撮影したサンプル映像を用いて,オプティカルフローの検出精度の確認を行なった.検討を重ねた結果,Farneback法を使用して,高解像度(5760×2880画素)の映像を1フレームごと(30fps)に処理することにより,誤検出が減少することが分かった.また,検出されたベクトルの値に対して,時間軸方向にメディアンフィルターを適用することも有効であった.現時点では,0.5秒間隔でベクトルを合成し,各方向(前,右,左,上,下)の角速度の平均値を求め,オプティカルフローの強度の指標としている.その指標には環境のレイアウトとテクスチャーが反映されていて,生態学的視覚論の基づいているという点において,画期的な環境のシークエンスの記述法だと言える.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画では,令和3年度に環境の記述法の開発(撮影装置の選定,ソフトウェアの開発)を行い,令和4年度に記述法の有効性を検証する実験を行う予定であった.しかし,経費の節約と技術の習得のため,自身でソフトウェアを開発しようとした結果,令和3年度中には十分な性能を達成することができなかった.そこで,令和4年度に専門の業者に作業を依頼し,動作の検証と処理の修正を繰り返しながら,必要な性能を満たすソフトウェアを開発した.そのため,令和4年度には,計画していた実験を行うことができず,それに伴い研究成果の公表(国内外の会議での発表,論文の投稿)も行うことができなかった.また,新型コロナウィルスの感染拡大により,別の科研費の研究課題の期間を延長したため,その実験の実施とデータの分析のために時間を割く必要があった.
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画を修正し,令和4年度に予定していた実験と研究成果の発表を,実験の内容を部分的に変更した上で,令和5年度に実施する.実空間で行う実験とバーチャルリアリティを用いた実験を計画していたが,効率よくデータを取得するため,どちらの実験もバーチャルリアリティを使用し,同時に実施する予定である.また,没入型ドライビングシミュレーターの大型スクリーンを利用する予定であったが,利用できる時間に制限があるため,市販のヘッドマウントディスプレイの使用に変更する.移動しながら圧迫感を評定する実験は,バーチャルリアリティを使用すること以外は内容を変更しない.身体の揺れ(重心動揺)を計測する実験は,頭部の運動がデータに影響してしまうので,移動距離の知覚を調べる実験に変更する.それらのデータとオプティカルフローの関係を分析し,環境の記述法の有効性を検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度には2種類の実験と国内外での研究成果の発表を計画していたが,進捗の遅れにより実施に至らなかった.それに伴い,計測機器の購入費,実験設備の利用料金,実験参加者への謝金,学会参加のための旅費を使用しなかったので,次年度使用額が生じた.その実験と成果発表は令和5年度に行うので,そのための装置(ヘッドマウントティスプレイなど)の購入費,実験参加者への謝金,学会参加のための旅費に使用する予定である.
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