研究課題/領域番号 |
21K04443
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研究機関 | 東京都立大学 |
研究代表者 |
山村 崇 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 准教授 (20732738)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 知識創造 / ナレッジシティ / 場所 |
研究実績の概要 |
(1)昨年度に引き続き、東京都台東区のクラフト的ものづくり産業集積についての事例分析を進めた。その際、経営者が広義の「経営資源」を獲得する場面に着目し、各場面における「空間-出来事」の組み合わせを類型的に把握したうえで、具体的なエピソードと関連付けて分析することで、知識創造を下支えする環境を《場所》として解明することを試みた。 その結果、主として以下の結論を得た:①長年事業を営んできたベテラン経営者の事業所が、新規参入経営者にとっての「学びの場」となっていること。②新規参入経営者同士の相互の「学びあい」が活発であること。③事業コミュニティの空間・飲食店・まちなか・アトリエ等が、経営者同士の「社交の場」となっていること。④事業コミュニティの空間・まちなかが、事業アイデアを生み出す「触発の場」になっていること。また、当地の都市空間が、経営者たちに資源獲得のための多様な場を提供しており、その結果として集積地域全体としての《場所》性が立ち現れて、産業コミュニティの継続的な維持発展を可能としていることを指摘した。 (2)知識産業の重要な立地決定要素である「場所のイメージ」について、公的統計データ等の古典的な都市環境データに加えて、SNSビッグデータを用いた予測モデルの構築を進めた。AIを用いた複数の予測モデルを比較検討することで、モデルを精緻化した。 その結果、主として以下の結論を得た:①SNSデータなし(古典的都市環境データのみ)のモデルに比較して、SNSデータを加えたモデルでは、都市イメージの局所的・偏在的な分布を抽出・表現することが可能であること。②SNSデータをのみ変数として用いることで、古典的都市環境データを投入しなくとも、一定水準の予測精度を達成することが可能であること(当該手法は、都市イメージ把握の迅速化・低コスト化に資すると考えられる。但し予測精度には改善の余地がある)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までのところ、研究は当初計画に対して順調に進捗している。その理由は以下の通り: (1)東京都台東区においては、主たる研究対象である「クラフト的ものづくり産業」の経営者コミュニティとの緊密な信頼関係を構築したことで、十分な量の有効なインタビュー調査データを得て、知識創造を下支えする《場所》にかんする仮説検証をすすめることができたことが、進捗に寄与した。また、前年度から推進してきた「場所論」についての国内外の先行研究レビューをもとに、基礎的な理論枠組みを設定し、それを用いて事例から得られた定性データを解析することで、経営資源が獲得される場の特性についての分析を、的確に深掘することができた。 (2)SNSビッグデータを用いた場所のイメージの予測モデル構築に関しては、あらたに導入したAIを用いた予測手法が有効に機能し、先行研究に比べても良好な予測精度を達成できたことが、進捗に寄与した。また、予測結果として得られた都市イメージ指標の地理的分布を、地理情報システム(GIS)を用いて分析することで、本研究で提案した手法の特性を把握することができた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)クラフト的ものづくり産業集積に関する事例分析を進める。東京都台東区の集積地域についてのこれまでの分析結果を総括し、「創造的産業空間」の特性を整理して、それをもとに、知見の一般化を行い、産業活動の知識創造性を下支えする都市空間整備の方向性について整理する。 (2) 近代工業から知識創造型産業への構造転換が進む都市・地域を訪問し、地域産業振興に関する先進的な取り組み事例を調査する。そして各事例の特性を、共通のDBプラットフォーム上に整理して比較分析する。特に、①近代工業のために整備された産業基盤(工業インフラ)の活用・再生、②母都市との空間的・経済的関係性、③近接して立地する関連事業者間のフォーマル・インフォーマルな紐帯の存在、④知識創造の《場所》、という四点に着目して評価・分析を進める。 (3)「場所のイメージ」に影響を及ぼす要素のうち、視覚的に認知可能なもの(可視的形象)に着目し、国内外における先行的な理論研究のレビューや映像実験等を通して、「場所のイメージ」が形成されるメカニズムについての分析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、ケーススタディのためのフィールドワークの大部分を、オンラインインタビューや資料調査に切り替えたことなどから、次年度使用額が生じた。 R5年度以降、感染症の沈静化をにらみつつ、現地踏査を含むケーススタディを増やしていく予定であるので、これまでオンラインインタビュー等を先行させていた事例を現地踏査により深掘することをふくめて、詳細なケーススタディを行うために、当該予算を使用する計画である。
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