研究課題/領域番号 |
21K04450
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研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
阪東 美智子 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (40344064)
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研究分担者 |
石垣 文 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 助教 (60508349)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 一時保護所 / 児童相談所 / 婦人相談所 / 建築計画 / マニュアル |
研究実績の概要 |
本研究では、児童相談所一時保護所・婦人相談所一時保護所の役割・機能や空間構成を整理し、施設整備を行う際の考え方や手続き、建築上の留意点や工夫事例等を備えた建築計画マニュアルの作成を目指す。具体的には、①申請者らがこれまでに収集した資料の二次分析による既存施設の課題の抽出、②全国の一時保護所に対するアンケート調査による今後の建築ニーズの把握、③施設職員等関係者に対するインタビュー調査による施設空間の課題の検証、④新築・増改築事例の現地踏査によるグッドプラクティスの収集、⑤①~④の調査結果を踏まえた建築計画マニュアルの作成および自治体への配布を行う。 令和3年度は上記のうち①②④に着手した。①では、平成25~26年度児童福祉問題調査研究事業「一時保護所における支援のあり方に関する研究」(研究代表者:和田一郎)の研究データ(一時保護所の図面と施設概要のデータベース)を研究代表者から提供を受け、一時保護所の平面計画について再分析を行った。②では、全国の児童相談所一時保護所(管理者1名と処遇職員1名)を対象にアンケート調査を行った。調査項目は、一時保護所に加えたい機能空間・設備、理想とする施設空間・環境、一時保護ガイドラインの理念に照らした施設空間・環境で、管理者用にはさらに、管轄人口、定員、職員数、入所率と在所日数、延床面積、建築年、所要室・居室の状況、建替えニーズなどの施設概要に関する項目を加えた。④では、一時保護所の設置を進めている自治体に協力を得て、計画から開設まで(計画時・着工時・建設期間中・竣工時・運用後)の経緯について情報を収集した。また、新築事例を視察した。さらに、児童相談所と婦人相談所の相談対応状況の全国的様相や地域特性を把握するため、福祉行政報告例に記載されている統計情報を地図に落として「見える化」を図った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
児童相談所一時保護所の過去の研究データの再分析では、立地や運営及び建物の特徴を明らかにするために、立地自治体の分類、建築基本データの分析、平面図の分類、建築・改築年と機能諸室の相関、Google Mapを用いた屋外環境の調査を行った。78施設の建築基本データのうち、築後年数、定員数、延べ面積、一居室当たり人数、居室面積を用いてクラスター分析を行った結果、「築古多人数居室型」など5つに分類することができた。また、51施設について、管轄児相内の人口、管轄児相内の18歳未満人口、年間平均入所率、実日数を用いてクラスター分析を行った結果、「地方低利用型」など5つに分類できた。平面構成については、「男女幼児の居室の分け方」「日中活動する部屋同士の関係」「居室と日中活動する部屋の関係」の3つの視点で分類を試みた。 一時保護所のアンケート調査については、今年度は児童相談所のみを対象に実施し、全国145施設のうち、管理者38名(26.2%) 処遇職員32名(22.1%)から回答を得た。児童居室の個室化、専用室(体育館・屋外運動場、食堂、学習室等)の設置や広さを求める回答が多く、現行の最低基準の不十分さが示唆された。管理者は「ケアとの関わり」、処遇職員は「諸室の性能・質」「設備環境」に関する意見が多く見られた。 一時保護所の計画から開設までの経緯については、2自治体の協力を得てインタビュー調査を行い、計画から開設までの経緯に関する情報を得た。事例調査については、新築事例3件を視察し建築計画上の工夫等について情報を収集した。 福祉行政報告例の統計情報からは、児童相談所・婦人相談所とも、相談受付件数や一時保護件数は都道府県によって大きな違いがあることが明らかになった。 当初の予定にあった、一時保護所関係者を招致して行う定期的な勉強会の開催については、コロナ禍を鑑み次年度以降に持ち越すことにした。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に予定していた定期的な勉強会(児童相談所・婦人相談所等の職員や設計に関わった人、専門家などを招致して意見交換等を行う)については、新型コロナウイルス感染症の感染状況に配慮しつつ企画を進め、令和3年度のアンケート結果等も参考にして 一時保護所のあるべき姿について仮説を構築する。 令和4年度は、全国の児童相談所一時保護所を対象に、1回目のアンケート結果を踏まえて2回目のアンケート調査(デルファイ法)を実施する。婦人相談所一時保護所については、婦人相談所併設の一時保護所に加えて緊急一時保護の委託先も対象に、建築ニーズを把握するためのアンケート調査を実施する。アンケート調査を補完するために、数か所の施設についてはインタビュー調査も併用する。 また、過去10年間に新築・増改築された一時保護所、及び数年内に新築・増改築を予定している一時保護所を調べ、5~6か所程度を目標に現地を訪問して観察調査を行い、空間整備の特徴・工夫・留意点等を収集する。新築・増改築した施設については、関係者にインタビュー調査を行い、基本計画から竣工に至るまでの経緯や、竣工後に明らかになった課題等を整理する。 令和5年度は、上記の調査結果から、一時保護所の建築計画の考え方、新築・増改築を行う上での手順、機能・役割に応じた空間整備の留意点、各種課題に対する対応策などを検討し、グッドプラクティスの事例などもあわせて、施設整備のための建築計画マニュアルを作成する。マニュアル作成の段階で、不足している情報やグッドプラクティスの追加収集など補足調査を実施する。マニュアルの作成にあたっては、随時、施設関係者の意見を仰ぐ。作成したマニュアルは、今後一時保護所の設置を予定・検討している自治体に配布する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に予定していた定期的な勉強会(児童相談所・婦人相談所等の職員や設計に関わった人、専門家などを招致して意見交換等を行う)の開催を令和4年度に繰り越したため、実施に際して必要な講師の謝金や交通費として使用する。 また、令和3年度はコロナ禍で現地訪問が難しかったため、電話やオンラインによる調査が中心となり交通費・旅費の支出が少なかった。令和4年度は令和3年度よりも現地訪問が増加する見込みであり、交通費・旅費として使用する予定である。
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