研究課題/領域番号 |
21K04465
|
研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
西田 雅嗣 京都工芸繊維大学, デザイン・建築学系, 教授 (80198473)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ロマネスク / 鐘塔 / クリュニー / 教会堂 / 中世建築 / シンボリズム / 心性 / 建築構成 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、クリュニー地方を中心としたフランス南ブルゴーニュに11世紀から12世紀にかけて建設されたロマネスクの小規模教会堂の鐘塔について、教会堂建築の一部を成す鐘塔が、構想、計画、建設、増改築、維持管理、表象、象徴のそれぞれの面で、半ば独立した自律する建築として認識されていたことを明らかにすることで、2006年から2017年に実施した建築調査で得られたデータや収集した資料、作成した実測図を中心に、これらを総合的に利用し新たに分析を行う研究である。 今年度は、研究代表者がフランスにおける建築調査を始めた1992年以来の調査データ・資料を整理・分類し、分析可能な媒体に変換し、本研究に相応しい分析対象を選定するまでを中心に行なった。また、11・12世紀を中心とした中世における美学関係のテキスト、および19世紀の建築考古学関連の古典的研究成果の読解と分析も並行して行なった。 特に写真、複写図面などの図像関係の現有資料は膨大な数に及んでおり、これらの整理と分類に多大なエネルギーを要したが、概ね終了した。分析可能媒体への変換については、変換候補資料の選定までを行なった。11・12世紀の一次史料と19世紀の文献の読解については、Mortet-Deschamps、Recueil de tetxtes au Moyen Age、Sicardi Cremonensis episcopiのMitrale、及びHonorii AugustodunensisのOpera omniaを入手し、読解を開始し、またViollet-le-Ducのテキストの読解を進めた。 西洋建築史の概説書のロマネスク建築の章を、今年度の研究で得られた知見を援用して執筆・出版した。また建築のシンボリズムに関して、本研究に深く関係する視点を持つ日本建築の古典的名著のフランス語訳を共同で行いフランスで出版した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、フランスにおける補足的な現地建築調査を計画していたが、コロナ禍のため海外での調査が実施できなかった。そのため、現有資料の整理と分析を中心に研究を実施することに変更したが、現有資料の量が想定以上に多く、また、当初考えていた時期よりも遡って現有資料を整理する必要が感じられたため、今年度の研究が、現有資料の整理に終始してしまった感があるため。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は、海外調査が問題なく実施可能になり次第、フランスにおける補足的な現地建築調査を実施したいと考えてはいる。しかし、本年度実施した研究を通して、現有資料の充実度が殊の外高いということがわかったので、場合によっては無理をしてフランスでの補足調査を実施せずとも、研究代表者らの既往研究成果、現有資料をもとに、これらの精緻で詳細な分析だけでも、所期のも研究目的は達成できそうな感触もある。フランスにおける現地での補足建築調査は、当初研究経過においても最重要の必須実施項目ではなかったので、臨機応変に考えたい。 2022年度には、本研究課題着想のきっかけの一つでもあったNicolas REVEYRON氏パリのノートル=ダム大聖堂の火災に関する著作の翻訳を出版することになっており、この翻訳出版も本研究の実績の一つとなる予定である。また、欧米を中心に各国の10名程の専攻的研究者にノートル=ダム大聖堂の火災を巡って、建築の保存や修復、復元、ヴィオレ=ル=デュク、中世建築などに関してのインタビューをフランス人研究者が行ったものが2022年度中に出版されることになっていて、研究代表者西田もインタビューを受けており、この出版も本研究の実績となる予定である。 2022年度と最終年度の2023年度は、現有資料の分析とその結果の取りまとめの年であり、上記2冊の出版により得た知見も十分に活かされる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画していた、1名の補助者を伴う10日間程度の現地補足調査の実施とパリでの研究協力者との研究打合が、コロナ禍の関係で実施ができなかったため、当該年の研究実施内容を、これまでに実施してきた調査で収集した現有の資料の整理を、当初の計画以上に徹底して行うことに変更したため。フランスでの補足調査関連の経費が全て当該年度では不要となった。また、整理すべき現有資料が当初の想定より大幅に点数が多かったため、分析にまで手が回らず、ノートパソコンや画像解析ソフトの購入が当該年度では不要となったため。 フランスでの補足建築調査が2022年度中に可能となった場合は、その実施をのために次年度使用額を使用することになるが、未だ万全な形での渡航に不安がある場合は、整理された現有資料に基づく分析を2022年度の中心課題とし、2023年度での補足調査を考えることもあり得る。その場合、2022年度の使用額は、2023年度でのフランス渡航に必要な経費を考慮しての額となる。
|