研究代表者が過去に実施した建築調査で得られたデータや収集した資料、作成した実測図を総合的に利用し、研究代表者の既往調査結果の考古学的分析と、文献や史・資料に基づく歴史的考察も総合して、鐘塔の形式、寸法構成、幾何構成、装飾、改変履歴、沿革を考量して、中世当時の心性の中で認識されていた鐘塔の姿を明らかにする研究で、特にクリュニー地方を中心としたフランス南ブルゴーニュに11世紀から12世紀にかけて建設されたロマネスクの小規模教会堂の鐘塔について、教会堂建築の一部を成す鐘塔が、構想、計画、建設、増改築、維持管理、表象、象徴のそれぞれの面で、半ば独立した自律する建築として認識されていたことを明らかにすることを目的に実施された研究である。 1992年以来の調査データ・資料を、特に大量にあった35mmmポジスライドとともにデジタルデータ化することができ、多角的な分析を可能とする資料環境を整えた。11・12世紀を中心とする中世に著された神学・建設関係のテキストや関係する中世の文学や記録のテキストの現代校訂版を収集・読解をし、デジタル化した建築調査データを活用し、中世のテキストに読み取れる建築世界と建築調査で理解できる建築のあり方との比較考量を行った。 成果は、建築のシンボリズムという次元で本研究に深く関わる日本建築の古典的名著のフランスでの共同翻訳出版(2021年10月)に生かされ、研究代表者執筆の西洋建築史の概説書のロマネスク建築の章(2022年1月発行)に取り入れられ、欧米を中心に各国の15名の専攻研究者がパリのノートル=ダムの火災を巡ってインタビュー形式で論を展開した、イタリアで出版された研究書での西田の章(2022年12月)で論じられた。また、研究代表者の著書『歴史の建築意匠』の第5章「塔』で、等のシンボリズムが独立した建築形態がゆえに持ち得る意味として、具体例とともに論じられている(2024年4月)。
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