研究課題/領域番号 |
21K04466
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
箕浦 永子 九州大学, 人間環境学研究院, 助教 (70567338)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 近代移行期 / 地租改正 / 土地所有 / 土地利用 / 地籍 / 券帳 / 城下町 / GIS |
研究実績の概要 |
本研究は、日本近代都市史において学術的課題のひとつである土地所有の問題に関して、明治初頭の地租改正による土地所有の移動について、特に都市部の動向を解明することを目的としている。 1年目である令和3年度は、福岡城下町について1876(明治9)年『地所取調帳』より地籍のDB化を行い、明治期の「字限図」より地籍復原図を作成したうえでGISデータを構築し、地租改正〈後〉のデータとして一応の完成とすることができた。ただし、一部の町は『地所取調帳』が欠損しているため、全町のデータ構築とはいかなかった。それらの町については、地租改正による土地所有の移動を解明することは難しくなったが、別途、入手済の大正初期の地籍図をもとにした考察を行いたいと考えている。一方、地租改正〈前〉のデータ構築に向けて、近世後期の史料には地籍を網羅的に把握できるものが無いため、入手可能な史料をもとに部分的な町々のデータ構築となる。まずは町人地のうち博多部について、近世後期の櫛田神社文書「町絵図」を用いてデータ構築を進めた。近世後期の絵図は敷地の形状や縮尺が正確に描かれているわけではないため、明治、大正、昭和の地籍図を適宜参照しながら作業を進めた。また、武家地については城下図、屋敷割図、分限帳を用いて作業を進めている。以上のように、1年目である令和3年度は、福岡城下町に関するデータ構築を推進した。また、研究成果を論文にまとめるための準備を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、①地租改正〈前〉地租改正〈後〉の土地所有のデータ構築、②明治初頭の土地所有の移動に関する網羅的な考察、③近世的土地所有に特徴がある他の都市との比較考察、という作業を通して、近世後期の武家地、町人地、寺社地の1筆1筆が、明治初頭の地租改正を契機に土地所有がいかに移動したのか、移動のある場合と無い場合について具体的実態を解き明かすことを目標としている。 研究計画では、1年目に①の作業、2年目に②の作業、3年目に③の作業に集中的に取り組むこととしていた。1年目となる令和3年度としては、①の作業のうち地租改正〈後〉の土地所有のデータ構築はほぼ完了したが、地租改正〈前〉については完了しなかったため、おおむね順調に進展しているという状況である。また、1年目から③の作業に向けた史料収集を進めていく計画であったが、新型コロナウィルス感染症の流行により国内出張が難しい状況が続いたため、比較対象地としている東京、名古屋、長崎での史料調査があまり進まなかったことも影響している。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目となる令和4年度は、まずは明治初頭の福岡城下町における地租改正〈前〉のデータ構築を完成させることを目指す。そのうえで、地租改正〈前〉と地租改正〈後〉の土地所有の移動について、1筆ずつ網羅的に考察する。基本的には江戸後期の絵図や券帳などの各史料と明治の『地所取調帳』をもとにするが、補完的に、近世の史料として地租改正直前の1872(明治5)年~1873(明治6)年「券帳直し願」を用いる。なお、当初は明治の史料として法務局に保管されている旧土地台帳を用いる予定であったが、令和3年度に法務局にて閲覧申請したところ現在は個人情報に関わるため閲覧は極めて限定的となっており、網羅的な情報収集は難しいことがわかった。そのため、『地所取調帳』に頼らざるを得ないと考えている。さらに、比較対象としている江戸(東京)、尾張(名古屋)、長崎について地租改正〈前〉と地租改正〈後〉の土地所有に関する史料収集を鋭意進めることとする。そして、研究成果を論文にまとめる作業を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究課題では、福岡を主な対象として江戸(東京)、尾張(名古屋)、長崎を比較対象として取り上げることとしている。各都市において地租改正〈前〉と地租改正〈後〉の土地所有に関する史料収集を行う必要があり、国内出張を行う予定であったが、新型コロナウィルス感染症の流行に翻弄されたため次年度への持ち越しとなった。令和4年度は史料収集を推進する必要があるため国内出張旅費に使用するとともに、史料複写費、また研究成果発表のための投稿料・掲載料にも充てていく。
|