2023年度は取りまとめの年度である。まず前年度に一部未実施となった調査も含め、前年度に継続して、西三河地域となる安城市において、三河地震で被害を受けた民家の実態把握の現地調査を行った。安城市野寺町の遺構について改めて遺構の現状再調査を行い、本研究のため震災被害の状況を把握し、罹災の痕跡を分析した。地震動による変形によるホゾや仕口の損傷や亀裂が、差鴨居や敷居まわりに顕著に認められる事が明らかとなった。この事例報告を所属の紀要に成果として報告した。 前年度に整理した遺構の実態と比較検討すると、類似点と相違点が指摘できる。類似点として、指物が集中する独立柱となる座敷まわりの居室境の柱で差鴨居仕口まわりに破断の被害が生じている点、そのため外部側に添え柱を立てて補強を行っている点がある。構造的に脆弱なため損傷が生じたと考えられる座敷・仏間部分に補強が必要と判断したことがわかる。一方で、同様な平面でも損傷の度合いは一様ではない点が相違点として指摘できた。2階の有無や柱の太さなど耐震性能に関わる実態は事例ごとに異なる。このような相違が損傷の相違の原因とも考えられる。 前年度に分析した濃尾地震後となる尾張徳川家大曽根邸の書院・広間の図面には、筋交いなど小屋組の補強が認められたが、3年度にわたって整理した濃尾地方、三河地方の現存遺構からみると、民家建築レベルでは同様な補強が必ずしも一般化した形跡はなく、むしろ震災を契機として被害を受けた建物に、事後的に補強が加えられているという実態が明らかとなった。 なお安城市野寺町の遺構については、安城市が公有し地域施設として公開するため、国有形登録文化財として登録を申請することとなった。登録申請にかかる所見のなかで、本研究で得た震災遺構としての実態を示し得た点は、研究成果の社会還元の観点から重要であると考えられる。
|