研究課題/領域番号 |
21K04470
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研究機関 | 公立鳥取環境大学 |
研究代表者 |
浅川 滋男 公立鳥取環境大学, 環境学部, 教授 (90183730)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ブータン / チベット仏教 / ボン教 / 密教 / ストゥーパ / 円堂 / 行基 / マンダラ |
研究実績の概要 |
2021年度もブータンへの渡航は叶わず、国内での活動に終始した。2012年以降のブータン調査データを整理しつつ、ボン教とチベット仏教に関しては、2020年度から収集した中国側の論文を読み進めた。一方、奈良市疋田町でみつかった菅原遺跡「円堂」の復元に取り組んだ。円形平面の仏堂遺構と推定され、日本建築史に類例がない。8世紀後半に存続した菅原遺跡は『行基年譜』にいう長岡院の可能性が高く、行基が入滅した喜光寺の西1kmの丘上に所在する。円形に並ぶ柱穴と基壇跡が回廊・塀等によって囲まれており、法隆寺東院伽藍を彷彿とさせる。中心にある「円堂」も、基壇上の本体部分は八角堂であり、そのまわりに十六角形の土庇(裳階)をめぐらせている。こうした特殊な遺構の復元案を1案に絞るのではなく、複数案併行で検討した。また、インドで流行した密教の影響は空海以前の奈良時代に伝来しており、その代表的な遺産が東大寺の毘盧遮那仏・大仏殿だと捉え直すとともに、大仏鋳造を主導した行基が師匠の道昭(玄奘の弟子)やインド僧菩提遷那などを通して中後期密教の影響を受け、その成果として、大野寺の土塔や菅原遺跡の円堂に「円」の造形を表現した可能性があると推定した。 以上の諸成果を中間報告書『ブータンの風に吹かれて-中後期密教の比較文化』として刊行した。構成は以下のとおり。第1章「菅原遺跡円堂の復元」(浅川・岡垣頼和他)、第2章「ブータンの崖寺と瞑想洞穴」(吉田健人・浅川)、第3章「ブータンの崖寺と瞑想洞穴(2)-第4次調査の報告」(浅川・大石忠正他)、第4章「西ブータンの崖寺と民家-ハ地区を中心に」(浅川・大石)、跋文「開学20周年とブータン研究」(浅川)、付録「ブータン仏教関係卒業論文・修士論文概要」。本科研期間中に出版予定の「ブータン密教とボン教の空間論」を主題とする著作のベースになる報告書がまとまったと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2年連続でブータン出張が叶わず、十分な現地調査ができていない。国内における活動だけでは当初の目的を完遂しえない。 昨年は、インドの密教系ストゥーパとも関係すると考えて、奈良市菅原遺跡の円堂(8世紀中ごろ)の復元に取り組み、インド・チベット方面の類例と比較する研究や文献研究、既調査データの整理と中間報告書の刊行にとどまった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度(2022)は必ずブータンに出張し、ポプジカのクブン寺などボン教と係る仏教遺産を再訪するとともに、平家の落人村落にも似たボン教徒の隠れ里があるという情報を得ているので、ぜひとも訪問したいと思っている。ワクチンを3度接種したことで、学術的に重要な必要性があれば、海外渡航も可能になるはずであり、ブータン側の隔離も短期間になっている。3年ぶりの海外調査を実現させたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響でブータンへの渡航が叶わず、旅費が消化できなかった。国内で関係図書を購入・講読し、既調査データの整理をして、中間成果となる報告書を刊行したが、当初計上していた旅費未執行の影響が大きく、残高が発生した。今年度はこれを補うためにもブータン調査を実現させたい。
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備考 |
菅原遺跡「円堂」の復元プロセスについては、研究室ブログ(http://asaxlablog.blog.fc2.com/)上で5回連載している。連載のタイトルは「復元検討web会議」(第1回)~(第5回)。行基に係わる奈良時代の仏教遺産は、インド~チベット・ブータン方面の中後期密教遺産と関連があるという発想により、本研究に含めた。
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