研究課題/領域番号 |
21K04470
|
研究機関 | 公立鳥取環境大学 |
研究代表者 |
浅川 滋男 公立鳥取環境大学, 環境学部, 教授 (90183730)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ボン / ブータン / チベット仏教 / ベンジ(ベンブジ) / ナグツァン / ムクツェン / 非仏教的土着神霊 / クブン寺 |
研究実績の概要 |
2019年度はコロナ禍のためできなかったブータン調査を2020年12月末におこなった。2019年の調査地、チメラカン(プナカ)とクブン寺(ポプジカ)を経由して感覚を取り戻しつつ、トンサ地区のベンジ(ベンブジ)村を訪れた。ベンジはボン教徒の隠れ里だが、ブータン国内でもあまり知られていない。チベットを統一した最初の王朝、吐蕃の初代王ソンツェンガンポは仏教に帰依したが、当時は先行するボンの力がなお強く、仏教に大きく舵を切ったのは8世紀のティソン・デツェン王であった。王には後継権を有する王子が4人いた。3人は王の意志に従い仏教に帰依したが、1人の王子がボン教に固執する。命令に叛く王子に王は告げた。「都のラサにいても、お前は生きのびることができない。遠い南の彼方に逃げてボンを信仰しなさい」と。その王子が逃げ落ちて定着した村がベンジという伝承を村人が共有している。村では、まず翌日の祭祀のためボンの幡を新調する儀式を見学し、その後、封建領主の館ナグツァンの三階奥にあるボン教秘奥の間を視察した(撮影不許可)。その部屋はセンデンデワ開山と伝えるクブン寺の秘奥の間と同じく黒で塗りつぶされ、黒い髑髏が諸処にあしらわれている。部屋規模はベンジの方が一回り大きく、しかも内部の隅に地域の守護神ムクツェンの像(人間と等身大)が祀られていた。これまでハ地区の民家仏間脇壁で赤鬼ジョウと青鬼チュンドゥ、クブン寺本堂仏壇隅で魔女アムチョキムを見た経験はあるが、ボン教専門の祭祀部屋で守護神をみるのは初めてのことだった。なお、帰国の前日、パロのゾンドラカ寺本堂の片隅でムクツェンに似た像、境内の一部でボンの幡を確認した。このように、従前は仏教寺院の一部にボン的または非仏教的信仰要素を確認するにとどまっていたが、ベンジのナグツァンではボンの部屋でボンの主神を確認できたことは衝撃であり、今後の調査で理解を深めていきたい。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
コロナ禍の影響は小さくない。フィールドワークは遅れ気味であり、今年度中に当初の調査計画のうち2回目までを終えたいが、叶うなら、繰り越しをご許可いただき、来年度に最終調査を行うことを希望する。
|
今後の研究の推進方策 |
今年は最終年度にあたるが、旧科研(2018-22年度:課題番号18K04543)と本科研(2021~23年度;課題番号21K04470)とも2020~21年に現地調査をおこなえなかったため、調査計画は全体的に遅れており、予定していた今年度の1回の調査で最終報告を編集・刊行するのは難しい状況にある。ポプジカのクブン寺、トンサのベンジ集落でさらにおこなうべき活動が少なくなく、また以前訪問したハ地区のチュンドゥ寺も重要な非仏教系寺院だが、当時はネパール大地震の影響で大工からのヒアリングのみにとどまった。全国的にみて稀少な非仏教系寺院の訪問と再調査がぜひとも必要だ思っている。こうしたことを考えると、今年度2度以上の調査をして報告書を刊行するのは難しい状況なので、来年度に一度の補足調査と報告書作業をまわしたいと希望する。コロナで新旧2件の科研が遅延しており、それを1年で取り戻すのは非常に厳しい状況にある。今年度も部分的な繰り越しをお許しいただきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって海外フィールドワークが不可能になったため。今年度1回以上、できれば2回の現地調査で補うが、それで十分とは言いがたいので、来年度への繰り越し(補足調査と報告書の編集刊行)を希望する。
|