研究課題/領域番号 |
21K04493
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研究機関 | 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構 |
研究代表者 |
野村 哲史 国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構, 航空技術部門, 主任研究開発員 (80709361)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 火星ダスト / 軽ガス銃 / 輻射計測 |
研究実績の概要 |
火星突入時の突入機への空力加熱に、火星ダストがどのような影響を与えるのか実験的に調査することを試みた。これまでダスト環境での自由飛行試験を可能とするように装置を回収整備してきた。今年度はダスト環境下での自由飛行試験に先立ち、まずクリーン環境下(CO2ガスのみの環境下)での試験を行い輻射計測を実施した。試験環境として、過去に検討された火星探査ミッションの計画値を参照したが、その突入速度域(4km/s程度)では、これまで中赤外や真空紫外波長域で計測実績があるが、可視波長域の輻射計測はあまり行われておらず、新たな計測となった。その結果、これまで火星大気突入時の加熱率予測の分野では着目されていなかったスペクトルが検知された。そこで燃焼ガス計測など他分野の文献を調査し、そのスペクトルの発光種は、CO flame bandと呼ばれるCO2の化学発光であると同定した。加えて、同等の流体環境を別装置で再現するなどして、その再現性も確認した。自由飛行試験における発光強度を実験的に見積もると、CO2の化学発光は、他の発光種(CO2の中赤外スペクトルやCOの真空紫外スペクトル)も含めた全波長帯の輻射加熱に対して有意な割合で寄与していることが判明した。ただ、CO flame bandとして識別されているものの、そのスペクトルを正確に解析している先例は確認できず、輻射加熱率の予測には新たなモデル化が必要となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ダストによる輻射加熱への影響の有無の確認、およびそのモデル化を目的として取り組んできた。その結果観測されたスペクトルはこれまで考慮されてこなかったものであり、その同定に時間を要した。結果として、CO2の化学発光であると識別した。加えて、その発光強度を見積り、輻射加熱の予測に重要な要素であると判明した。輻射加熱率を正確に予測するためには、3原子分子の電子励起状態間の遷移を解析する必要があるが、CO2が持つ複数の振動モードの解析は容易ではなく、23年度中には完了しなかった。
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今後の研究の推進方策 |
観測されたスペクトルの同定には至ったものの、そのスペクトルを解析的に予測し、輻射加熱を算出するまでには至っていないため、引き続き24年度にスペクトル解析に取り組む予定である。解析対象はCO2化学発光であるが、同様のスペクトルを有すNO2の解析は過去に例ががあるため、その手法を参照する予定である。また並行して、ダスト環境下での輻射計測も実施し、ダストの影響の有無を明らかにする予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
試験の結果、モデル化には新たな発光メカニズムを解析ツールに導入する必要があることが明らかになり、その導入に時間を要している。次年度引き続き解析とその検証のための試験を実施する必要があり、そのための次年度使用額である。試験供試体の調達に使用する予定である。
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