研究課題/領域番号 |
21K04512
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
川島 久宜 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (50399531)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 混相流 / キャビテーション / 気泡 / 可視化計測 |
研究実績の概要 |
キャビテーションをともなう流れでは,気泡の崩壊により物体表面に損傷を与えることが広く知られており,これまでキャビテーションの崩壊にともなう衝撃力計測など様々な研究が報告されている.小型船舶の船外機では,プロペラの腐食抑制を目的として塗装が施されている場合がある.しかし,船舶の使用状況により,表面に塗布された塗装の剥離や損傷が確認されている.これらの要因として,キャビテーションエロージョンであることが推測されるが,プロペラから生じるキャビテーションが直接的な原因とは断定されていない.また,この塗装の損傷が発現するまでの時間,損傷程度などを推定するには至っていない. 本研究は小型回流水槽を用いたモデル実験により,塗装を施した縮流モデルをキャビテーション状況下に曝し,塗装の損傷とキャビテーションの因果関係を明らかにし,塗装損傷の推定法を得ることを目的とする.実験では,流速を変化させた場合の塗装の損傷位置,面積,また損傷に要する経過時間を調べる.また,各流速条件について流れの高速度カメラを用いたキャビテーションの発現から崩壊に至る挙動について可視化を行い,崩壊位置と塗装の剥離位置の関係を得る.さらにモデル表面にはたらく力を実験的に調べ,実験事実に基づく知見を構築する.実験結果の詳細を調べるため,OpenFoamを用いた数値シミュレーションを行い,実験結果と対比することで数値モデルの検証および塗装損傷に関する推定法を見出すことをあわせて目的とする.これらの複合的な知見を基に,キャビテーションによる物体表面損傷の推定法を得ることを狙う.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小型回流水槽に設けた可視化部に縮流部を設置し,縮流部に生じるキャビテーションの様子を可視化した.これまでの実験により,モデル表面に塗布した塗装の剥離位置,面積,剥離までに要する時間と主流部の流速変化との関係について調べた.また,キャビテーションの崩壊にともなう縮流部表面にはたらく力について,PVDF(ポリフッ化ビニル電)フィルムを用いた衝撃力センサを製作し,物体表面の力分布計測を行った.製作した衝撃力センサは 3 mm × 5 mmの受力面とし,計16個センサをモデル表面に埋め込み,キャビテーション崩壊にともなう衝撃力の分布計測を試みた.縮流モデル近傍の気泡が崩壊した位置付近のセンサでは,崩壊にともなるパルス状の衝撃力を計測できたものの,その周囲の衝撃力センサには崩壊による強い衝撃力を得ることはできなかった.モデル表面の塗装の剥離面積は衝撃力センサで得られた衝撃力よりも大きく,塗装の剥離に対してモデル表面に働く衝撃力の関係を得るためにセンサの感度について改善する必要があることがわかった. OpenFOAMを用いた数値計算を実施し,実験結果と数値計算結果に定性的な一致があることが確認できた.今後,計算に使用したパラメータの影響を調べる予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度までに,実験水槽の構築,縮流モデル脱着の効率化,多点衝撃力センサの製作,OpenFOAMを用いたキャビテーション流れの模擬などを実施した.これまでに得られた実験結果より,塗装の剥離に対する流れの状況などの大概は把握できたものの,その物理現象の詳細を把握するには至っていない.その理由の一つとして,キャビテーションの崩壊によるモデル表面に働く力の分布が得られておらず,塗装の剥離挙動とキャビテーションの流れの相関が曖昧であることが挙げられる. 本年度は第一に縮流モデルに働く衝撃力分布が得られるよう,自作センサの改善を実施する.特にセンサの感度に対し,受力面の大きさ,厚さの影響を評価し,衝撃力分布が得られるよう検討する. 第二に数値計算に対して各種パラメータの影響を調べる.本研究で使用するOpenFOAMには流れの模擬するために多くの基礎パラメータを設定する必要がある.例えば計算格子の設定,乱流モデルは,実際の流れに対する影響を吟味する必要がある.これらの複合的な知見をもとに,本課題である,キャビテーションによる塗装の剥離に関する知見を深める.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究成果を海外での国際学会,国内での学会発表を予定していたが,当初想定していた実験結果(衝撃力センサの出力結果)が満足するものではなく学会発表を見送った.そのため,学会参加費,渡航費に未使用分が発生し予定額に達しなかった.未使用分については次年度,成果報告,実験装置の改良費等に充てる予定である.
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