研究課題/領域番号 |
21K04514
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
内野 明子 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (40311005)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ワークロード / 必要タスク / 定量的評価 / 情報収集行動 / 衝突回避 |
研究実績の概要 |
大型船舶の安全運航に限らず、人間オペレータを重要な機能要素に含むシステムを安全かつ安定的に運用するには、システムで対処にあたる環境条件に応じて必要となる機能に基づき、機能の達成を期待された人間オペレータの達成限界を越えないほか、達成に要する条件を確保しているのか、必要機能を把握し、システムによる実現性を評価しておくことが重要である。これは、多機能/高機能化したシステムや船舶等のビークルに搭載される各種の情報機器のほか、高度な自動化や自律化システムを開発時に考慮すべき事項に共通する概念であり、その限界や有効性の評価に当たる。現実世界への導入可否を判断する重要な評価点となる。 本研究では、環境条件に応じて安定的な運転や操縦に必要となる機能を「必要なタスク」、更に「ワークロード」と定義し、この達成を担う人間の処理限界を越えない合理的基準の明確化を目的に、その定量化を図る。特に、輻輳海域での大型船舶運航における、衝突回避のための遭遇船の情報収集を対象とする。これは、船橋における運航業務の多くを占める一方、「適切に監視して回避せよ」との規定に留まっている。また、衝突危険の判断基準は操縦者の経験に委ねられ、何を根拠に判断するのか明確でなく、難易度の高いタスクのひとつとなっている。故に、経験を積んだ操縦者が安全運航を達成できた際の行動を分析し、この結果を基に必要なタスクを特定してワークロードの定量化を図る。 このうち、当該年度では、衝突回避操船に至る以前の行動について調査することに注力してきた。特に、このままの状態を続ければ危険な状態に発達すると判断するに至る根拠となる情報は何か、情報の内容、収集される情報の前後関係等を詳細に調査した。また、並行に、操船判断を実施する者にとって、相対的に重要度の高い状況を判断するための物理量としての生理的評価指標を計測するシステムの構築にも注力した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度を終えた現時点においては、衝突回避操船に至る以前の、対象船の発見時点から「このままの状態を続ければ危険な状態に発達すると判断するに至る根拠となる情報」収集の期間に焦点を絞って調査してきた。更に、情報の収集方法として、見張りと同様にワークロードの増減を左右すると考えられるVHF交信を併せて調査することにより、衝突回避を要する対象船に遭遇する環境条件により、情報収集のタイミングに明確に分離する傾向を得ることができてきたところである。この解析と並行に、これらの情報収集行動において、物理的指標としての生理的指標において、これらの傾向の確証度を上げるための計測システムを構築しているところである。
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今後の研究の推進方策 |
現時点までに得られた明確な傾向の妥当性を検証するには、解析データ数を増やすことが必須であると共に、解析対象とする遭遇環境条件の分離と整理とが必要となってきている。この整理について、従来から用いられてきた分離基準に留まらない、新たな基準を検討しているが、計測する際の遭遇環境条件を構成する条件要素の組合せが大きく左右すると考えている。この整理は、ワークロードの定量化に直接的に関わる内容であることから、十分な検討が必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響により、旅費を伴う出張が制限されて実施できなかったことが大きい。また、同じ理由から、操船シミュレータを用いた実職の航海士による実験の実施がかなり制限されている現状があり、人間オペレータによる行動特性の分析を中核に据えているため、進捗が遅れている。
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