研究課題/領域番号 |
21K04522
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研究機関 | 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所 |
研究代表者 |
今井 康雄 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (40426218)
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研究分担者 |
川内 智詞 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (20549993)
高木 正英 国立研究開発法人海上・港湾・航空技術研究所, その他部局等, 研究員 (50371092)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 低硫黄燃料油 / すす / 壁面熱損失 |
研究実績の概要 |
2020年1月から開始された舶用燃料油に対する硫黄分規制において,規制値を満たすために,分解軽油の混合利用が想定される.分解軽油は芳香族分を多く含むことから,エンジン排出ガス中の有害物質であるすすの排出量が増加する可能性がある.また,ディーゼル燃焼では,燃焼中に生成されるすすの輻射熱伝達が,燃焼室壁面の熱損失と関係があり,燃料油中の芳香族分が,すすの排出量に及ぼす影響を評価するのと同時に,壁面熱損失に対する影響も評価することが重要である.さらに得られた結果を系統的に示すことで,環境負荷の低減や高効率エンジン開発のための,燃焼手法の開発の指針となるパラメータおよびデータを示すことが本研究の目的である. 本手法では,燃焼中間生成物の中ですすの生成・酸化に関係するC2およびOHラジカルの自発光の時空間分布を計測し,各ラジカルの自発光強度の積算値と発光時間を求める.今年度は,トルエンとヘキサデカンの混合燃料およびメチルナフタレンとヘキサデカンの混合燃料において,これら求めた値がすすの排出量との相関があることを確認しており,C2およびOHラジカル自発光強度の積算値と発光時間を用いた,すす排出量推定式を求めた.また,すす排出量推定式の有用性を確認するために,ドデシルベンゼンとヘキサデカンとの混合燃料を用いてすす排出量評価を行った. 次に,当所所有の急速圧縮装置は,燃料噴射時のエンジン燃焼室内の温度・圧力の環境を再現し,エンジン1サイクルの燃焼を解析するための装置であるが,すす排出量評価は,エンジンの膨張行程といった圧力・温度低下環境下についても知見を広げる必要があると考える.そこで,急速圧縮装置の燃焼室に充填された空気を圧縮するための油圧ピストンを,従来では固定して燃焼実験を行ったが,エンジンの膨張行程を含めたすす排出量評価を行うために,油圧ピストン制御プログラムの改造を行った.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
すすの排出量評価については,着火特性が概ね等しく,芳香族環数の異なるトルエン(単環)とメチルナフタレン(二環)を,それぞれヘキサデカンとの混合燃料を作成して燃焼実験を行い,すすの排出量評価を行った.画像解析にてC2およびOHラジカルの自発光強度(ピクセル輝度値)の積算値と発光時間を求めた.すすの排出量は石英フィルタで捕集し,フィルタスモークメータで汚染度を計測した.その結果,各ピクセルの自発光強度の積算値と発光時間は,フィルタスモークメータで得られたすすの汚染度に対して相関が確認できた.また,すすの排出量を推定するために,自発光強度の積算地と発光時間をパラメータとしたすす排出量推定式を求めた.この推定式の有用性を検証するために,単環で着火性の良いドデシルベンゼンとヘキサデカンの混合燃料(濃度70%)を作成して燃焼実験を行い,各ラジカルの自発光強度の積算値と発光時間を求め,推定式に代入して得られたすすの推定排出量とフィルタで捕集した実測のすすの排出量を比較したところ,概ね一致したことを確認した. 膨張行程を再現するための油圧ピストン制御プログラム改造は,ピストンの動きを制御することはできているが,最終的な調整をまだ残している状況である. 以上の進捗は当初の計画通りに進んでおり,概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
すすの生成・酸化の時空間分布を計測し,得られた画像を解析することによって簡易的にすすの排出量を推定する手法の有用性については概ね確認できた.今後複数種の芳香族分を含んだ燃料のすす排出量評価を行い,本手法の有用性をさらに検証する. 壁面熱損失については,芳香族分が少ない燃料の火炎や,着火遅れが長く予混合化が進んだ場合の火炎については,すすの生成が少ないことが予想される.この場合,通常の可視化では火炎の判別が難しい.そこで壁面近傍での火炎の挙動は,燃焼中間生成物であるOHラジカルの時空間分布を計測することで,熱損失との関係性を調べる. これらの検証の後,エンジンにより近い環境である膨張行程を含めたすすの排出量評価と壁面熱損失との関係を系統的にまとめ,燃焼手法の在り方について検討する.
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では,燃焼観察用の機材としてイメージインテンシファイア等のレンタルを予定したが,当所の予算で購入したためレンタルの必要がなくなった.しかしながら,試験燃料を作成するための試薬が高価であるため,レンタル費を試薬購入費として使用する計画である.
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