研究課題/領域番号 |
21K04525
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研究機関 | 福島大学 |
研究代表者 |
藤本 勝成 福島大学, 共生システム理工学類, 教授 (50271888)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 集合関数 / コンセンサス / 集団意思決定 / 合意形成 |
研究実績の概要 |
東京電力福島第1原子力発電所の「汚染処理水処分」の問題,これは,集団意思決定,合意形成の問題として,今,最も注目されているトピックの1つである.汚染処理水の処分の方法の決定において,多くの意思決定主体は「コスト」に「重きを置いて」いる.また,「安全性」は「ゆずれない」,さらに,地元の漁業関係者は,「風評対策」は「絶対にゆずれない」評価基準であると考えている.これらの「重きを置く」と「ゆずれない」のニュアンスの違いは,どのように評価・表現されるべきなのか?これらの見解は,集団の見解としてどのように集約・統合されるのか?この集団見解に対する各意思決定主体のコンセンサスとストレスは?これらを基に,どう再調整を行うのが効率的なのか?意見のぶつかり合いに対しては,妥協か?両立を目指すのか? これらの「問い」に対して(もちろん,この例のケースに限らず),「重きを置く」,「ゆずれない」,「コンセンサス(ストレス)」をキーワードに,非加法的集合関数を通した集団意思決定・合意形成のための理論・方法論を構築していくことを目的に,今年度は以下のような研究を行った. 代替案(選択肢)に対する各評価基準に照らした評価,ならびに,各評価基準に対する重視度を集合関数として表現する方法論について,文献調査ならびに,新たな手法の提案を行った.ここでは,どの評価基準を軸に,どの評価基準が「ゆずれない」基準なのかを表現することが,可能となっている. また,代替案に対する各評価基準に照らした評価も,各評価基準に対する重視度も,決定に参加するメンバー毎に,異なっていることが,一般的である.これらを,1つの評価へと統合する方法論として,いくらかの提案を行った.ここでは,ある種の平均値的なアプローチと,結果に対するストレスを最小化するような最適化理論ベースのアプローチの提案となっている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請時の研究計画に沿って,既存の集合関数をベースにした多属性意思決定理論および,合意形成ベースの集団意思決定理論に関する文献調査を行った.そして,これらの知見をベースに,「重きを置く」と「ゆずれない」のニュアンスの違いを考慮した,集合関数を用いた,新たな合意形成プロセスのための枠組みを提案した.また,これを,「システム/制御/情報 」誌65(12)において,「非加法的集合関数とその応用(6)多基準・属性対象の評価における合意形成」として公表した.本研究の初年度の目標は,主に,文献調査と枠組み(モデル)の提案であったため,その進捗としては,計画通りであり,おおむね順調に進展してるといえる.
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今後の研究の推進方策 |
1) コンセンサスとストレス 集団意思決定において,集合的代替解と個人の選好との間の差異の存在は不可避である.この際,集合的代替解に対して,どの程度合意できるのか(コンセンサス),どのくらい不満を感じるのか(ストレス)を定量的に測ることは,再調整プロセスの効率化に対してきわめて重要である.集団行動を集合関数で表現する方法論として,協力ゲームの理論がある.ここでは,最大不満の最小化(仁)や各人の他者に対する不満の均衡(カーネル)など,コンセンサスやストレスに関連する概念が存在する.これらの知見を援用しながら,本研究の文脈におけるコンセンサスやストレスの概念を定義・提案するとともに,これらに基づく,集団選好への集約・統合法を提案していく. 2) 代替案の評価基準に基づく評価 各代替案の評価は,「各評価基準への選好(重視度)」と「代替案の各評価基準に関する選好(属性値)」を統合することによって行われることが多い.それぞれの選好がともに点関数で表されるとき,例えば,のように加重平均として表される. 現在,それぞれの選好がともに集合関数として表される場合の統合演算子は存在しない.このため,この場合の統合演算子を定義・提案する. 3) アプリケーションの実装 上記で提案された諸概念・方法論を利活用するためのアプリケーションを作成・公開する.
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次年度使用額が生じた理由 |
感染症蔓延予防対策に起因して,研究集会・研究打ち合わせ等が,全て,オンライン実施となり,旅費の使用が0円だったため,旅費の打ち切り支給が不可能となった.物品並びに,原稿の校閲・翻訳等の支出によって,本年度使用額を予算額と完全に一致させることは非常に困難であり。71円の残額が生じることとなるに至った.
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