研究課題/領域番号 |
21K04530
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西村 悦子 神戸大学, 海事科学研究科, 准教授 (60311784)
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研究分担者 |
新谷 浩一 東海大学, 海洋学部, 教授 (60290798)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | コンテナ港湾 / ビークル運用 / ゲート前混雑緩和 |
研究実績の概要 |
港湾ターミナルのゲート前では、コンテナ搬送用トレーラーの待ち行列が、交通渋滞を招き、環境問題にも影響することから社会問題となっている。これは日本国内だけなく、諸外国の港湾周辺でも同様である。このため、行政を主体として様々な対策が実施され、その1つとして、最近、ゲート前コンテナ仮置きデポの設置が計画されている。そこで本研究では、内陸側から到着するコンテナに着目し、ゲート前のコンテナ仮置きデポの利用の有無やその運用内容を考慮したコンテナ配置の最適化アルゴリズムを構築する。 当該年度では、ゲート前混雑緩和を目的として、設置されるコンテナ仮置きデポの運用を検討するために、外来トレーラーの到着に着目した関連研究レビューを行った。そこで、シャーシ運用の検討が必要であり、シャーシデポの必要性について知見を得た。そこで、シャーシデポの運用に関する研究レビューを行いながら、シャーシ運用を考慮したビークル割当のモデル化を行い、SAによる解法アルゴリズムを開発した。 さらに外来トレーラーの運用方法による環境負荷への影響を見るために、海上コンテナドレージ問題を取り上げ、より現実に近い多期間での空コンテナの貸し借りを行い、現状では行われていない空車移動を認めることでコンテナの内陸輸送にかかるCO2排出量の削減方法を検討した。定式化で添え字が増えないよう工夫したモデルを構築した。 また陸上のトラック輸送だけでなく、海上のバージを利用して近隣の港湾ターミナル間のコンテナ輸送のモデル化を実施した。同一湾内の複数港間プッシャー・バージ輸送において、その運航方式の違いや、専用バース設置による柔軟な艀の出港時刻の設定が輸送費用に与える影響を分析した。具体的には、所与の輸送需要を満足する艀と押船の必要隻数やそれぞれの最適な運航スケジュールを決定する数理モデルを構築し、数値実験を行い経済的な運航方法を検討した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コンテナデポの有無、空コンテナ回送に複数期間を考慮、バージ輸送の可能性について、多方面から港頭地区の交通混雑緩和と環境負荷への影響について分析を行った内容を報告する。 まず関連研究を調査した結果、コンテナデポに相当するContainer Exchange Terminal(CET)というものがあり、またCETからコンテナをターミナルに搬送後、空とのなった骨シャーシの運用を検討する必要があることがわかった。そこで、トラックとシャーシの運用を考える。目的関数値は総移動距離の最小化とした結果を示す。荷役時間長の違いで比較すると、荷役時間が最長の3.0時間のときに、移動距離が長くなった。また従来運用の結果と比較すると、いずれのケースも大幅な総移動距離の改善が見られることがわかった。 次に、コンテナドレージ問題を考慮した問題では、アントコロニー最適化による解法アルゴリズムを構築する。CO2排出量は6から7割前後の改善効果が見られた。荷役時間を延長すると、改善効果が増大する傾向にあり、複数日にまたがると微増ではあるが、効果が大きいことがわかった。また、空コンテナ移動距離は6割強の短縮効果が見られ、荷役時間長にはあまり影響されないことがわかった。 さらに、バージ輸送の可能性を検討した結果、柔軟なはしけの出港時刻の設定が可能であれば、輸送費用を大幅に削減できることがわかった。また、艀の出港時刻に時間幅を設定した場合、ある一定の時間幅によると、艀の出港時刻の最適化を行ったことと同様の費用削減効果が得られることがわかった。その理由は、本船のバーススケジュールの影響を受けることなしに プッシャー・バージの運航にとって都合のよい運航スケジュールが立案でき、さらに、はしけと押船の投入隻数を減らし、固定費を押さえつつ、所与の輸送需要を満たすことができるからである。
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今後の研究の推進方策 |
本年度はターミナル内部への接続をモデル化し、ターミナル外部の運用方法の違いが、ターミナル内部での作業時間その他にどのように影響するかを検討する予定である。 まずコンテナデポ、シャーシデポの運用に着目し、最適化しない場合にどのように運用するのが一般的かを再検討する。デポの設置自体で起こりうる課題、その課題を解決するためにどのように運用するのかについて検討する。またターミナルにトレーラーが到着後、次のコンテナがすぐに搬出されるなら、それにコンテナを積載すれば、シャーシやドライバーを無駄なく運用することができる。そのため、コンテナ搬出のタイミングの違いを考慮するモデルが必要である。これには、モデルの解法アルゴリズム検証と数値実験の計算結果の精緻な分析を行う予定である。大きく3つのパートで実施する。 (1) 前年度に情報収集した文献に加えて、さらに関連研究の調査を行いつつ、昨年度の進捗状況について国内外で学会発表し、関連研究者と意見交換を行いながら、海外の事例を参考にモデル内で考慮すべき点を整理する。 (2) コンテナデポ、シャーシデポを考慮した海上コンテナ搬送のためのビークルとシャーシの運用問題の数理モデルを具体化し、前年度に開発したモデルの改良を行う。前年度は問題範囲の絞り込みが難しく時間を要したため、定式化に依存しない問題範囲でヒューリスティクスによる解法の提案を行った。本年度は、定式化に依存する解を得るための数理モデルを構築する。 (3) ターミナルでのコンテナ搬出タイミングの違いを反映して、数値実験を行う。搬出のタイミングはターミナルの混雑具合や船の寄港状況などに依存する。そこで、(2)で構築したモデルと解法アルゴリズムで数値実験を行う。最後に数値実験の分析結果をまとめるとともに、今後に残された課題などがあれば整理して、今後どのような研究に発展させるかを検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
まず最も大きい要因は、旅費の支出が全くなかったことである。またコロナ禍の影響で、海外渡航が難しくなり、同様に、国内の他地域への出張を見合わせた時期があったためである。モデル構築、解法アルゴリズム開発、予備実験などの研究活動については、大きな変更にはなっていない。しかし、学生アルバイト雇用も一部制限されたため、データ観測と整理が限定的になり、その分の支出もなかった。 このことから、また国内外で行う情報収集のタイミング、意見交換の機会を減らすことになり、予算を多く使用することになる海外出張の機会を減らすことになった。オンライン開催の学会に参加する機会があり、その際の学会参加費の支出があった。 本年度の使用計画は、論文投稿に向けた英文校閲費やオンラインになるかもしれない学会参加費、収集したデータの解析に使用する統計分析ソフト、構築したモデルや実験結果に関連して、情報交換のための国内外の学会出張と現場との意見交換である。関連情報収集と整理には、大学院生の補助を必要とし、アルバイト雇用費を必要とする。また関連する文献資料の購入も行う予定であり、収集したデータを保存・整理するための保存媒体やファイル類も購入する。さらに、モデル改良のために新たなソフトウェア、関連してモデル構築のための書籍や文献資料も購入する予定である。
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