研究課題/領域番号 |
21K04543
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
前田 康成 北見工業大学, 工学部, 教授 (30422033)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 農業 / 作物選択 / 栽培管理 / 市場価格 / マルコフ決定過程 / マルコフ連鎖 / 動的計画法 / ベイズ統計学 |
研究実績の概要 |
農業収益の最大化に関する従来研究では、作物選択(栽培する作物の選択)と栽培管理(農作業の選択)を独立に検討している。例えば、作物選択に関する従来研究では日々の栽培管理は最適化されていないので、栽培管理を考慮した場合の作物選択の期待収益の最大化は実現できていない。 栽培管理も考慮したもとで期待収益を最大化する作物選択を実現するためには、作物選択と栽培管理を統合し、期待収益を最大化するための作物と日々の農作業を1つの意思決定問題の中で決定する必要がある。従来研究では、作物の選択問題と栽培管理問題を独立に検討し、さらに市場動向について考慮不足のため、収益の最大化を実現できていない。そこで、本研究では真に収益を最大化するために、両問題を統合し、さらに市場動向を表現する市場モデルを導入した独自の定式化を行った。 具体的には、栽培管理と作物選択の統合問題をマルコフ決定過程で表現した。さらに、作物の市場価格の変動をマルコフ連鎖で表現して、栽培管理と作物選択の統合問題のマルコフ決定過程と組合わせて、全体としてマルコフ決定過程における期待収益の最大化問題として定式化した。さらに、この最大化問題の期待収益を最大化する動的計画法による農業意思決定方法を提案し、数値計算例でその有効性を確認した。 さらに、近年のセンサを利用したスマート農業を想定し、上記の統合問題を栽培管理における作物の真の状態は未知で、センサによる観測値のみ把握可能な問題設定に拡張した。具体的には、ベイズ統計学に基づき栽培管理における作物の状態に事前確率を導入して、ベイズ基準のもとで期待収益を最大化する農業意思決定方法を提案し、数値計算例でその有効性を確認した。また、栽培管理を対象に、農業試験場等における効率的な試験栽培のための能動学習問題を定式化し、ベイズ最適な試験栽培方法を提案して、その有効性を数値計算例で確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
実施計画では、令和3年度には、栽培管理と作物選択の統合問題をマルコフ決定過程で表現し、かつ作物価格の価格変動をマルコフ連鎖で表現し、それらを融合させたマルコフ決定過程による農業収益の最大化問題を定式化することと、その最大化問題の最適解を算出する農業意思決定方法の開発を計画していた。 他方、実績では実施計画の内容を実施した後、追加で実施計画には含まれていなかったセンサを伴うスマート農業への拡張を検討した。センサを伴うスマート農業では栽培中の作物の状態を直接把握することはできず、センサによる観測データに基づいて栽培管理を実施する。そこで、上記統合問題に対して、栽培中の作物の真の状態に関する事前確率を新たに導入して、センサを伴うスマート農業における栽培管理と作物選択の統合問題を定式化した。ベイズ基準のもとで期待収益を最大化する、センサを伴うスマート農業に対応した農業意思決定方法を提案し、その有効性を数値計算例で確認した。 さらに実績では、栽培管理に注力したもとで、農業試験場における試験栽培を能動学習問題として検討した。具体的には、栽培管理を各種確率が未知のマルコフ決定過程で表現した。複数の畑を想定し、各畑で独立に栽培行動を選択するのではなく、複数の畑全体を考慮する効率的な栽培管理方法を提案し、その有効性を数値計算例で確認した。 また、実績欄では言及していないが、本研究課題において得られたマルコフ決定過程、動的計画法、ベイズ統計学に関する知見のさらなる活用として、感染症対策、ヘルスケア支援、料理レシピ推薦、設備保全、小売店における仕入戦略の各課題に応用し、その有効性を確認した。 よって、実施計画よりも明らかに多くの成果が得られており、「当初の計画以上に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
現状において、今後の推進方策について、実施計画からの変更は特にない。 令和4年度には、履歴データ不足の地域への対応について検討する。令和3年度に検討した栽培管理と作物選択を統合した統合問題では、基本的に各種確率は既知と仮定した。これは、対象地域における履歴データが十分にあるという仮定と同じである。しかし、現実には必ずしも履歴データが十分にある地域ばかりではない。他方、対象地域の履歴データは不足するが、近隣地域の履歴データは十分にあるというケースも想定される。本課題では、このようなケースを検討する。具体的には、研究代表者の研究経験より、ベイズ統計学に基づいて地域間の類似性を分析する。類似性の高い他地域の履歴データ/モデルを利用することによって、履歴データ不足を補う。 令和5年度には、気候変動の影響が農作物の栽培環境に及んだ地域への対応について検討する。地球温暖化による気候変動の影響が農作物の栽培環境に及んでいる地域では、従来栽培してきた農作物の生産地として不適切になり、いかにしてその地域での栽培に適した新たな農作物を選択するかが重要である。本研究では、申請者の研究経験より、ベイズ統計学に基づく地域間の類似性に時間軸の類似性を加味する。具体的には、履歴データを時間軸で年代別(例えば10年)に分割し、対象地域と直近(例えば直近の10年)の履歴データの組に関して、他の地域と各年代の履歴データの組に対する類似性をベイズ統計学に基づいて分析する。類似性の高い地域と年代の組に関する履歴データ/モデルを利用することによって、栽培に適した新たな農作物の選択および栽培管理が可能になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算機の品薄状況が影響し、計算機1台の購入が遅れたことによって残額が発生しました。残額のみでは計算機1台に不足しますが、次年度分の助成金と合わせ、研究を計画通り進められるよう、適切に計算機を購入させて頂きます。
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備考 |
北見工業大学が学内の研究シーズを学外に公開しているものです。2022年4月20日時点ではまだ2020年版が掲載されていますが、準備中の2021年版には本研究課題について記載しております。
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