本研究課題の成果は以下の通りである. ・ロンドンをはじめ,オーストラリアのニューサウスウェールズ州とワシントン州など徐々に多くの地方自治体の政策に組み込まれている健康的な街路を目指したHealthy Streets Approachやパリで公表された市民が自動車を使わずに徒歩や自転車で15分以内に職場や学校,商業施設,公園といったあらゆる都市機能にアクセスできる都市を目指す"ville du quart d’heure(15分都市)"構想などについて調査し,事例を収集した. ・高齢者の日常における外出行動特性ならびに歩行状況を詳細に把握するため,スマートフォンアプリを用いて,高齢者の日常における詳細な外出ならびに歩行データを二週間収集するとともに,富山市で導入されている交通系ICカードデータについても併せて収集した. ・収集した高齢者の外出行動データならびに交通系ICカードデータを用いて基礎的な分析を行った結果,富山市で実施されている高齢者を対象とした公共交通運賃割引制度の利用の有無により,外出時の歩行量に統計的に有意な差があること,また,医療費が低い人ほど,歩行量の多寡により,その後の医療費に統計的に有意な差があること,公共交通運賃割引制度に継続して登録していない高齢者は,数年後の医療費が統計的に有意に高くなることなどを明らかにした.その上で,これらの分析結果を踏まえ,高齢者の健康増進に資する都市社会システム創出のための都市・交通施策について検討した.
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