研究課題/領域番号 |
21K04550
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
石川 真志 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (10635254)
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研究分担者 |
小山 昌志 明星大学, 理工学部, 准教授 (00453829)
西野 秀郎 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (50316890)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 非破壊検査 / 赤外線サーモグラフィ / 超音波 / 定在波 / き裂 |
研究実績の概要 |
本研究では、き裂やキッシングボンドなどの欠陥検出に有効であることが知られている超音波励起サーモグラフィ法による非破壊検査に注目し、特に検査時の超音波伝搬の過程で検査対象物内に生じる定在波による検査への影響について、波動伝搬の観点から検討すること、および得られた知見をもとに定在波の発生に伴う検査への悪影響を低減する手法を提案することを目的としている。初年度は、形状の異なるいくつかの試験片に対する超音波加振および赤外線サーモグラフィでの発熱分布観察を行い、励起超音波条件、検査対象物の形状と発生する定在波に起因する発熱(定在波発熱)の分布との関係について実験的な調査を行うとともに、実験を模擬した有限要素解析による波動伝搬シミュレーションをもとに、得られた定在波発熱の要因となる波動伝搬のメカニズムについて検討を行った。具体的には、板厚の異なる複数のアクリル試験片に対する実験、および波動伝搬シミュレーションを行い、両者の比較から、特に板厚の小さい対象物を検査した際に観察される定在波発熱の分布(発熱位置間の間隔)は板状対象物を伝搬するラム波のA0モードにより生じた定在波の波長と一致することが確認された。このことより、検査に際して定在波発熱を引き起こす主たる超音波はラム波のA0モードであると考えられる。また、定在波の発生と本検査手法によるき裂検出能力との関係についても実験的な検証を行ったところ、き裂上に定在波が発生する条件において特にき裂部での発熱が大きくなり、熱画像からのき裂検出が容易となることが確認された。一方で、き裂上に定在波が存在しない条件ではき裂部での発熱が著しく小さくなることも確認された。これらのことは、本手法による検査の際には生じる定在波の有無およびその分布への知見と配慮が不可欠であることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の計画は各種形状の試験片に対する実験およびシミュレーションを行い、定在波に起因する発熱の発生メカニズムの検討および体系的な知見を得ることを目標としていた。予定通り実験およびシミュレーションを実施し、定在波発熱の要因に関する知見を得ることができたことから、予定していた計画をおおむね順調に実施していると考える。一方で、体系的な知見を得る、という点に関連して、特に板厚が大きな対象物の実験結果などにおいて、シミュレーションおよび理論計算値と実験結果が一致しない条件も散見されており、体系的に知見を得るためにはこれらについてのさらに詳細な検討を実施する必要がある。この点については次年度も継続して実施予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の実験結果において、シミュレーションおよび理論計算値との差が見られる一部の条件については、引き続きその要因についての検討を行う。加えて2年度目に予定していた定在波発熱を抑制し、き裂部発熱の検出を容易にするための実験条件およびデータ処理方法についての検討を行う。実験条件の工夫(加振位置、および加振点数の検討)と得られた熱画像データに対する適切なポストデータ処理方法の検討・提案の2つの点から検討を行う予定であり、初年度と同様に有限要素解析による波動伝搬シミュレーションの実施と、人工き裂を有する試験片を用意しての実験的な検討により、各提案手法の効果の評価を行う。また、本手法による検査対象物の候補として炭素繊維強化プラスチック(CFRP)にも注目し、試験片を用意するとともにCFRPに対する実験的な評価も並行して実施予定である(樹脂を母材とするCFRPもアクリルと同様に定在波に起因する発熱が発生しやすいと考えられる)。これらの検討より、実構造部材へも適用可能な定在波発熱の抑制手法の提案・確立を目指す(実際の検査適用を見据えた実構造部材への検証試験は3年目に予定している)。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、実験用の超音波加振機として周波数の異なる2種類を購入予定であったが、うち一つは本研究について共同研究を実施中の企業が所有する実験装置にて代用が可能であったことから、物品費が予定していた額より大幅に低下した。また、参画研究者間の打合せ、および学会参加などのために旅費を計上していたが、そのすべてがオンラインでの会議となったことで、旅費が必要なくなったことも一因である。残額については、次年度の研究計画にて加振機を複数設置しての複数点加振実験を予定していることから、これに必要となる追加の超音波加振機の購入、および次年度予定されている対面形式での打ち合わせ、学会参加用の旅費等に使用予定である。
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