本研究は,放射線施設の適切な安全管理に資することを念頭に,自然放射性核種の影響を排除し,測定下限値を改善した新たな放射線モニタリングシステムを構築するための基盤技術を得ることを目指したものである.本研究では,α線およびγ線測定器の出力信号を「時間情報付きリストデータ収集装置」で収集し,測定器が放射線を検出するたびに,エネルギーおよび検出時刻を箇条書きのように記録した(以下,「リストデータ」と呼ぶ).その上で,自然界に存在する代表的なラドン壊変核種(放射性核種)のうち,Bi214のβ崩壊で生成されたPo214が短い半減期164μ秒でα崩壊することに着目した. 基礎実験として,大気中のエアロゾルをエアサンプラーでろ紙上に捕集したものを試料とした.1.5時間程度の捕集時間が最適であることを確認した上で,ろ紙試料をPIPS検出器およびNaI検出器で測定し,得られたリストデータを自作のプログラムを用いてオフラインで解析した.Bi214とPo214のエネルギーに相当する検出イベントの検出時間差を抽出し,ヒストグラムを作成したところ,170μ秒程度の半減期を示すことがわかった.これは文献値とほぼ等しく,本研究の手法で上記2核種によるイベントを正しく抽出できることを確認できた.これらは放射線施設のモニタリングにおいてはバックグラウンドになる.バックグラウンドイベントを抽出できたことから,これを逆に用い,全イベントからそれらを除外することで,バックグラウンドを低減させた計測を実現できる道筋が得られた. また,リストデータ形式での測定は原子核物理実験などでは広く使われているが,放射線管理分野で使われることはほとんどないのが実情である.従来の測定法に比べて,リストデータ方式は格段に融通が利くため,本研究は放射線モニタリングに新たな手法を取り入れる端緒になりえると考えており,今後の展開が期待できる.
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