研究課題/領域番号 |
21K04573
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研究機関 | 群馬工業高等専門学校 |
研究代表者 |
花井 宏尚 群馬工業高等専門学校, 機械工学科, 准教授 (30312664)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 粉じん / 爆発 / 乱れ / PMMA |
研究実績の概要 |
粉じん爆発における着火時の乱れが爆発強度特性にどのような影響を及ぼすのか調べた.密閉容器内に形成した粉じん雲に既知の乱れを均一に与え,爆発により生じる容器内の圧力変化から粉じん爆発特性を明らかにした. 昨年度,粉体試料として,メタクリル樹脂の微粒子(粉体サイズ5,15,30ミクロン)を用いて実験を実施した.実験結果から,大きな粉体では,乱れ強さが増大するに伴って,圧力上昇速度が単純に増加することが分かった.一方,小さな粉体では,ある値より乱れ強さが大きくなると,乱れによる消炎効果が火炎伸長による面積増大効果を上回り,最大圧力上昇速度が減少に転ずることが分かった. 今年度は,粉体の種類およびサイズが,乱れと爆発特性の関係にどのような影響を及ぼすのか明らかにした.粉体は,ポリプロピレン樹脂,ポリエチレン樹脂,PET樹脂の燃焼性の異なる3つの樹脂を用いた.またメタクリル樹脂では,より大きな50ミクロンのサイズを用いて実験を行った.爆発強度と燃焼特性の関係を明らかにするため,容器内の圧力変化から燃焼速度を推算するプログラムを作成し,乱流場での燃焼速度を求めた.粉体の燃焼速度は,おおよそ気体燃料のそれと同等(10から30 cm/s程度)であった. 昨年度より準備を進めてきたノズルバーナーを用いた実験を実施した.密閉容器内では,厚い粉じん雲のため火炎の観察が難しい.バーナー法では火炎面の観察が容易なため火炎構造の観察が行えた.5ミクロンの粉体では,火炎面前縁でおおよそ気化が完了し,火炎面後方に粉体の火炎をほとんど観察することはできなかったが,15ミクロンでは火炎面前縁で気化が完了しなかった粉体粒子が,火炎下流域で拡散火炎を形成する様子が観察できた.粉じんの火炎においても,乱れが大きくなるにつれて見かけ上の燃焼速度が大きくなる傾向が見られた.これは,爆発事故における被害の増大をもたらす.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は,昨年度に引きつづき密閉容器内に既知の乱れを与え粉じん爆発を形成する実験と,新たに,粉体燃焼用に設計した乱れ発生板付きノズルバーナーを用いて粉体の火炎を観察する実験を行った.ここでバーナー実験を安定的に行うため,粉体供給装置の各部を見直し,実験条件を広く設定できるようになり,同時に実験の精度を高めることができた.しかし,まだ安息角の大きな粉体(小さな粉体や粘りのある粉体)には対応が難しい条件もあり今後対応予定である. 密閉容器の実験では,より大きな粉体である50ミクロンのメタクリル樹脂を用いた.実験当初,うまく着火ができないことがあったが,噴射圧力,着火時間の設定を見直し,また粉体分散板を専用品に取り換えることで爆発が適切に行われるようになった.この実験結果から,乱れの増加がヌセルト数の増加となり,その効果が顕著に表れる大きな粒子では,乱れの増加とともに最大圧力および最大圧力こう配が増加することが確認できた.しかし,爆発限界濃度の計測では,実験データのばらつきから十分議論できるデータが得られていない. 初年度に行ったバーナー実験では,粉体供給の不安定さから,消炎や火炎の吹き飛びがしばしば発生した.今回,供給ノズルの見直し,ホッパー部の再製作,加振機の出力アップおよび取り付け位置を見直すことでおおよそデータが適切に得られるまで改善できた.バーナー法における火炎の観察は,通常のデジタルカメラによる直接撮影と,カラーハイスピードカメラを用いた火炎のスロー再生を用いて行った.これにより,粉体の気化完了位置および火炎後方での後燃え粒子の観察を行うことができた.今後,レーザーを導入し詳細な粒子消滅から燃焼過程を追う予定である.
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今後の研究の推進方策 |
小さな粉体の安定供給は,粉体研究分野での最も大きな課題である.供給弁の改良,ホッパーの交換,加振機強度の増大と位置の調整により改善は見られたが,一方で,粉体サイズの小さい場合や,ポリプロピレンなどの柔らかいプラスチック使用時,または球でない粉体での使用など,安息角の大きな粉体使用においては,条件によって粉体供給にまだまだばらつきがみられる.今後は,それらの粉体に対して,粉体排出場付近へのジェット噴流の導入やホッパー内部の攪拌棒による機械的攪拌を実施し,より安定な供給を達成したい.また,プラスチック粉体は帯電による凝集も起こる.バーナー法実験の最終年度は,これらを解決し,より精度の高い粉体燃焼データの収集に努める. 密閉容器実験の昨年度の計画では,80ミクロンのメタクリル樹脂を用いて実験を実施する予定であった.しかし,粉体噴射の気流が弱く,また容器内導入口に設置された分散板がうまく機能していないことが分かった.噴射圧力と分散板の孔径の拡大と孔の配置を見直し,正常な爆発が行われるように調整し80ミクロンの爆発データを取得する. バーナー実験も同様に,80ミクロンの粉体は,バーナー内部で空気流速が低下するため,バーナー内を上昇しないことがしばしばあった.このため,バーナー口を下方に向けることや,バーナー内での気流速度を上げるため直管バーナーにするなどで,適切な粉体-空気混相流が得られるようにし,これまで困難であった大きな粉体の火炎構造の観察を実施する.また火炎の観察において粉体濃度の濃い条件では,すす濃度が高くすすからの発光が強いため,明確な火炎面が観察できていない.レーザーの導入により,火炎面の適切な取得と,PDPAを用いて火炎面付近の粉体濃度および粉体速度を取得することで,火炎構造の解明を進める.
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