研究課題/領域番号 |
21K04576
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研究機関 | 大島商船高等専門学校 |
研究代表者 |
岡村 健史郎 大島商船高等専門学校, 情報工学科, 教授 (60194388)
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研究分担者 |
松村 遼 大島商船高等専門学校, 情報工学科, 准教授 (20734768)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 密漁監視 / AIS / 画像処理 / サーマルカメラ / 海上交通安全 |
研究実績の概要 |
水産資源の枯渇化による水産物の高騰化や暴力団対策法の施行により,組織的で大掛かりな集団による水産資源の密漁が多発している。しかしながら,多くの場合密漁には通常の漁船が使用されるため,外観や運航軌跡等を用いた画像処理では自動発見が難しい。そこで,本研究では,不審船を直接検出するのではなく,発見した船舶の中から領域への進入許可船を検出することで不審船を発見するという発想の転換を行う。具体的には,次のように許可船を発見した後,不審船を検出する。 1.まず,海上の広域な監視対象領域に存在する船舶を,昼夜通してサーマルカメラから得られる画像を対象に画像処理により検出する。この検出には我々が改良してきた主成分分析法とパーティクルフィルタを併用した手法を用いる。この手法は,実世界上に設置した座標系を用いて,画像中の物体の位置を同定することが出来る特徴が有る。本事業では,数キロメートル四方に及ぶ広大な海上領域を対象に昼夜を問わず観測し,得られた画像中に存在する物体の位置を精度良く求めることが可能かどうかを検証する。この検証は2021年度に行った。 2.次に,船舶自動識別装置(以降,AISと記述)を受信し,海図上にAIS機器を搭載する船舶の位置を表示するシステムを安価に構築する。このため,小型コンピュータ,小型AIS信号受信装置,国土地理院が無償で提供する図面を用いる。このシステムの構築の可能性を2021年度に検証した。次年度には,1.において画像処理により求めた船舶において,AIS機器を搭載していない船舶も含めてコンピュータ上の海図に描画する予定である。 3.最後に,1.から得られた領域上に存在する船舶の位置と,2.のシステムによって得られた船舶の位置を比較し,AIS機器を搭載していない船舶を検出する。この検出は2022年度に行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,不審船を直接検出するのではなく,発見した船舶の中から領域への進入許可船を検出し,進入許可船以外の船を不審船として検出する。これらのために,2021年度においては,海上の広域な検出対象領域に存在する船舶を,昼夜を通してサーマルカメラから得られる画像を対象に画像処理により検出した。この時,画像中に存在する船舶に対して,実世界上での三次元座標を同時に求めた。また,AIS信号を受信し,監視対象領域に存在する船舶の位置を決定する。更に,地方の小規模な漁協などでも利用出来るよう,安価な監視システムとして構築するために,小型コンピュータ(Raspberry Pi),小型AIS受信機(市販のUSBソフトウェアラジオ),国土地理院が提供する無償の地図を用い,この地図上に監視領域と船舶を描画出来た。これにより監視装置が非常に安価に構築出来ることが明らかになった。 監視対象は,主に海上領域であるため天候や時間によって背景部分が大きく変化する。昼夜を問わず運用可能なシステムとして構築するために,3台のサーマルカメラを用いて幅5km,奥行き6kmの広域な領域を対象に15fpsの間隔で年間を通じて画像を保存し,評価のために繰り返し使用できるようにした。 上記の領域に存在する船舶の三次元実世界上での位置を,主成分分析法とパーティクルフィルタを併用した手法により求めたところ,船舶がカメラから2km以上離れると奥行き方向の精度が十分ではないことが明らかになった。これについては,位置決定のために必要なカメラキャリブレーションのために収集する画像において,カメラから遠方に船舶が存在する画像を,AIS信号に含まれる船舶の緯度経度を頼りに自動的に取得し,カメラパラメータの精度を向上させることで対応する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
海上の広域な監視対象領域に存在する船舶に対して,昼夜を通してサーマルカメラから得られる画像上でのその船舶の画像領域と実世界上での位置を精度良く決定する。これらとAIS機器から得られる船舶の位置とを比較することにより許可船を検出する。 これらの処理において,次年度では画像処理によって求める船舶位置の精度を向上させるために,カメラキャリブレーションに用いる画像を人手によらずカメラから自動的に取得するようにする。これにより,カメラから遠く離れた位置にある船舶を撮影した画像とその船舶の三次元空間上での位置を多量に用意することが出来るようになり,画像から求める船舶の位置の精度向上が期待できる。この処理を2022年度に行う。 更に,画像処理により求めた監視領域中の船舶の位置とAIS信号より求めた船舶の位置の比較を行う。この処理において,AIS信号は30秒間隔で発信されるため,信号が発信されていない時間においては,AIS搭載船を検出した結果をもとに,この船の画像中の領域と実世界上の位置を追跡する必要がある。これには現在利用しているパーティクルフィルタを用いるとともに,画像内の船舶領域をより高精度に検出するために,共同研究者が夜間の鳥獣追跡に用いている機械学習を用いた手法を応用する。これらから,船舶の追跡が,昼夜を問わず広大な海上領域で可能であることを検証する。この処理を2022年度に行う。 以上より,進入許可船が連続して検出できるようになるため,不審船の発見が可能となる。これらの処理が広大な海上領域を対象に,年間を通じて精度良く行えることを2023年度に検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では,広大な海上領域を監視するため,従来研究において2台のサーマルカメラを設置していたが,このカメラに加えて当該年度および次年度にてそれぞれ1台,合計2台のカメラを新規に設置する予定である。これらのカメラを設置することにより,カメラから数キロメートル離れた領域を隙間無く監視出来るようになる。 当該年度において設置を計画したカメラは,既設のカメラの性能を向上させたタイプの新製品である。このカメラは,既存の開発環境を変更する必要が無いだけでなく,高価なライブラリープログラムを必要とせず,容易に画像を処理できる特徴を持つ。更に,コストパフォーマンスにも優れ,安価で汎用的な自動監視システム構築を考えた場合,最適なカメラで,他に代用できるカメラ候補がないくらいに優れているという特徴を持つ。 そこで,当該年度において,このカメラ1台の購入と設置を試みたが,この製品が当該年度に発売された新製品であるとともに,折からの半導体不足で,当該年度末までに導入設置できる目処が立たないために,当該年度での購入・設置を諦めた。そのため,次年度使用額が生じたが,既設のカメラを利用することで,なるべく研究に支障が出ないようにした。令和4年4月には多くの販売代理店から販売可能のアナウンスがされているため,2022年度購入予定のカメラと合わせて購入し設置する予定である。
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