研究課題/領域番号 |
21K04583
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
越谷 信 岩手大学, 理工学部, 教授 (90205378)
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研究分担者 |
山本 英和 岩手大学, 理工学部, 准教授 (00250639)
福留 邦洋 岩手大学, 地域防災研究センター, 教授 (00360850)
小笠原 敏記 岩手大学, 理工学部, 教授 (60374865)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ALT / 防災ドリル |
研究実績の概要 |
本研究の目的の一つである、在日外国人であるALT(Assistant Language Teacher)の防災に関わる知識や意識の現状把握について、2021年度に引き続き、岩手県内在住のALTを対象として、紙面によるアンケート調査を行い、さらに、一部のアンケート調査回答者に対して、ヒアリング調査を行った。 アンケート調査では、岩手県大船渡市教育委員会および滝沢市教育委員会の協力により、同市内小中学校で勤務するALTを対象に、防災の知識、意識および日本における災害に対する懸念点について質問した。また、この中から大船渡在住のALTに対して、防災知識や意識、日本における地震・津波災害時を想定して、日本語で発せられる災害情報の入手における問題点に関わるヒアリング調査を行った。これらにより、今後のドリルブック作成にあたっての指針となる情報を得ることができた。たとえば、地震や津波などの緊急時であっても、日本人は敬語を使い、情報伝達の妨げになるのではないか」という指摘は、防災ドリルブックの作成にあたって貴重な情報となる。さらに、ヒアリング調査では、地震津波災害について、岩手県によるシナリオに基づき、事象に合わせて時系列的に公的な災害情報の理解度を確認し、問題点を抽出した。ここでは、音声で聞く場合の日本語の問題点を明らかにできただけでなく、回答者から災害発生の時系列的変化を明示されたことが大変有益であったことが指摘された。このことは防災ドリルブックの作成にあたって重要な指針を与えた。 もう一つの研究目的の柱である防災ドリルブックの作成に向けて、2021年から進めている米国における防災教育の特徴や上記の調査結果を受けて、構成原案を作成した。この原案では、防災に関わる基礎的な日本語学習、災害ごとのメカニズムや特徴の学習、時系列に沿った情報の入手や災害対応を基本的な構成とすることとしている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ALTがもつ災害に対する知識、意識、日本における災害についての懸念事項の現状把握について、ALTを対象としたアンケートおよびヒアリング調査を実施した。アンケート調査は、2021年度に引き続き行われたもので、岩手県大船渡市および滝沢市に勤務するALTを対象とした。防災知識に関しては、同じ米国内であっても州によって項目の軽重があることが明らかになり、このことを踏まえて基本的な災害に関する基礎知識を防災ドリルブックに取り入れる必要があると考える。防災意識については、勤務する小中学校の防災訓練に参加し、また、避難所の場所についても理解が進んでいる事例があった。日本における災害の懸念事項に対しては、緊急時には居住地周辺の情報が、防災行政無線などにより日本語で放送されることから、日本語理解に対する不安が指摘された。さらに、具体的に実際の防災行政無線文言集を例にとって日本語文言の難易度をヒアリング調査で検討した。たとえば、「大津波」と「津波」の違いや「東日本大震災クラスの」と行った文言は、日本人にとっては緊急性や重大性を強調するために使われているが、その意味するところがALTにはほとんど伝わっていないことが指摘され、実際に即した放送内容を防災ドリルブックに活かす必要性が明らかになった。 防災ドリルブック作成については、基礎資料を収集し、ドリルブック構成原案を作成した。基礎資料について、災害発生の時系列と気象庁など公的に発せられる警報や注意喚起の文言の流れを、最近発表された東京都や岩手県などの例を元に作成し、防災ドリルブック中の時系列に沿った情報の入手・災害対応の項目の基礎資料とした。ドリルブックは、防災に関わる基礎的日本語の学習を基礎編とし、災害のメカニズム、時系列的な情報入手の学習を応用編として構成するという原案を作成した。これらにより、研究の展開が開けてきている。
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今後の研究の推進方策 |
ALTの災害や防災に関わる知識、意識、懸念事項の現状把握について、これまでに行ってきた教科書による日米の防災教育比較調査、アンケート調査およびヒアリング調査の解析をまとめる。この際、必要に応じ、補足調査を行う。 防災ドリルブックの作成については、上記の解析結果から抽出された問題点を解決するような内容をもつようにする。現在、これらの内容を含んだドリルブックの構成の原案ができ、今後、米国アラスカ大学アンカレジ校の共同研究者とさらに議論を深め、ドリルブック構成の基本方針とする。現時点での基本方針案は、基礎段階として、防災に関わる最も基本的な日本語学習を行い、応用段階として、各災害の発生メカニズムや現象の特徴を学習し、災害ごとのシナリオ例に沿って時系列ごとに発せられる日本語の理解を深めていくというものである。この際、災害の種類は、現象の発生から緊急対応までに時間が少なく、日本語への言語的問題が事態を悪化させる可能性の高い地震と津波に焦点を当てる。 防災ドリルブックでは、災害ごとに、基礎的日本語、発生メカニズム生起される現象、時系列的な災害情報の入手と防災対応に関する質問、解答、解説を担当に分けて作成し、項目ごとに研究代表者・分担者・協力者と随時、打合せながら、ドリルブックの作成を行う。ドリルブックの作成の初期段階では、綿密な打合せが必要であるため、米国UAAにおいて、関係者全員が集まり、具体的な作業を行いながら、作業を進める。その後は必要に応じ、遠隔会議システムを使って、ドリルブック作成を行う。 完成したドリルブック原案は、日本在住のALT等に閲覧しもらい、内容に対するアンケート調査を実施し、検証を行う。また、可能な限り、ドリルブックを公表し、上記と合わせて内容について検証を行う。得られた結果を、論文等の形で公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究目的の一つであるALTのための防災ドリルブックの作成に関して,共同で研究を進めている米国アラスカ大学アンカレッジ校の共同研究者との打合せなどについて,新型コロナ感染症の流行により海外渡航が困難になり,メールでのドリルブックのひな型作成についての打合せは行ったものの,実質的には大きな進展はできなかった。2023年度には、米国共同研究者と綿密な打ち合わせを行い、同年度中には防災ドリルブックを完成させる。また、防災ドリルブックの内容を検証するため、岩手県内の教育委員会の協力を得て、ALT等に防災ドリルブックを閲覧批評してもらい、内容の検証を図る。これは質の高い情報にするため、対面形式により実施することが望まれる。これらの実施にあたっては、新型コロナ感染症の流行の推移によるが、いずれも直接、対面形式で行うことが最適であり、次年度に海外または国内出張による旅費として計上している。
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