研究課題/領域番号 |
21K04593
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研究機関 | 常葉大学 |
研究代表者 |
重川 希志依 常葉大学, 大学院・環境防災研究科, 教授 (10329576)
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研究分担者 |
河本 尋子 常葉大学, 社会環境学部, 准教授 (10612484)
田中 聡 常葉大学, 大学院・環境防災研究科, 教授 (90273523)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | COVID-19 / 災害対応 / 避難行動 / 災害エスノグラフィー / 緊急事態宣言 / 新型コロナ感染症 |
研究実績の概要 |
新型コロナ禍における災害発生時の、避難行動や行政の災害対応並びに外部からの支援状況の実態を把握するため、1)2020年7月九州北部豪雨時の大分県日田市の災害対応、2)2021年2月福島県沖地震の宮城県亘理町の災害対応に関して、自治体防災担当職員に対するエスノグラフィー調査を実施した。2020年4月1日付で内閣府は「避難所における新型コロンアウィルス感染症への対応について」を発出したが、二つの自治体はいずれも本基準に沿って、避難者の人数制限、検温やマスク着用、アルコール消毒や定期的な換気などを実施しており、避難所利用が短期間であったこともあり大きな混乱もなく対応している。また亘理町では災害発生前に新型コロナに対応した避難所運営訓練を実施しており、その1か月後に地震が発生したため、避難所となった学校関係者等も対応は十分に習熟していた。 また、新型コロナ流行が住民の避難行動等に与えている影響を明らかにするため、2021年7月豪雨において避難指示や緊急安全確保が発令された静岡県沼津市の住民を対象として質問紙調査を実施した。主な調査項目分類は、①回答者の属性情報、②新型コロナウイルスに関する項目、③防災意識に関する項目、④避難に関する項目で、調査票を配布した410世帯のうち204世帯から回答を得た。 その結果、対象地域の住民は、同大雨の際にほとんどが自宅に留まる選択をしていた。また、新型コロナ感染症への危機感の高低は、災害への準備行動に関する防災意識や避難所選択に大きな影響を与えていたことが明らかとなった。新型コロナウィルスに対する危機感の高い層は、指定避難所を利用した避難方法から他の避難方法に変更した割合が高かった。一方、同居家族に要援護者がいたり、自分自身に持病がある、コロナワクチンの接種の回数などの要件は、災害時の避難方法の選択に殆ど影響を及ぼしていないことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
東京都では2021年度中に新型コロナウィルスに関る2度の緊急事態宣言が発令された。このため現地調査を予定していた調査受け入れ自治体から、調査延期の申し出がその都度出され、予定していた2020年7月豪雨の被災地、2020年台風10号被災地、コロナ感染症の非影響下で生じた2018年7月豪雨被災地ならびに2019年台風15号被災地を対象とした自治体職員へのエスノグラフィー調査を実施することが不可能となった。エスノグラフィー調査手法の特性により、リモートでの調査では十分に質の高い情報を収集することができない。このため、2021年度に実施不可能となった対象地域に関しては、2022年度に調査を延期して実施する。 同様に、新型コロナ禍おいて発生した災害時に、住家が半壊以上の被害を受けた被災者を同定し、エスノグラフィー調査を実施する計画であった。しかしながら新型コロナの緊急事態宣言や蔓延防止措置期間が長引き、被災者を対象とした対面調査を実施することが不可能となった。代替措置として、質問紙調査を実施したが、質問紙調査で把握できることには限界があり、定性的で重要な情報を十分収集するには至らなかった。このため、計画当初より進捗がやや遅れている状況となっている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に新型コロナの影響により実施が不可能となった、被災地でのエスノグラフィー調査を再開し、COVID-19の影響下で生じた災害と、非影響下で生じた災害の比較検討を開始する。具体的には、地震災害ならびに風水害の2種類の災害をとりあげ、感染症による影響を受けたケース/受けないケースの双方の条件下において、1)避難所運営、2)災害廃棄物処理、3)広域応援活動受入れ状況の比較検討を行う。さらに2022年3月に発生した福島県沖地震では、福島県浜通り地区の北部で最大震度6強を観測し、多数の住宅が被害を受けた。本災害では罹災証明書発行等の支援のため、全国から支援職員の協力を得ており、新型コロナが及ぼす支援力の影響を解明するために研究対象に追加する。 また、2021年度に実施した災害時の住民行動に関する質問紙調査をさらに補足するために、新型コロナ感染以前と以後の災害を対象に、自宅に被害災が生じた被災者に対するエスノグラフィー調査を開始する。被災者の自助・共助行動を積極に執らしめた要因を抽出するが、要因は個人因子と社会的な環境因子に分類し、一つ一つのケースの分析を行う。ついで、分析の結果に基づき、被災者の「家族・地域社会」での立場や役割、災害発生時の対応行動の推移、その時々にそのような行動をとるに至った背景や理由の側面から、連関図を用いて要因間の因果関係を解明し、①外部からの支援に制約がある場合、②外部からの支援に制約がない場合の特徴分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度中に実施計画を立てていたエスノグラフィー調査に基く災害対応プロセスの同定に関る現地調査を予定していが、た調査受け入れ自治体から年度内で2回発令された緊急事態宣言のため、調査延期の申し出がその都度なされた。このため年度当初に予定していた2018年7月西日本豪雨の被災地である愛媛県西予市及び2020年7月号の被災地である山形県河北町を対象とした自治体職員へのエスノグラフィー調査を実施することが不可能となった。このため1泊2日2名の旅費ならびに、調査結果の文字起こし費用として計上していた予算を、2022年度に使用することとした。エスノグラフィー調査手法の特性により、リモートでの調査では十分に質の高い情報を収集することができない。このため、2021年度に実施不可能となった対象地域に関しては、2022年度に調査を延期して実施する。
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