研究課題/領域番号 |
21K04607
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
福山 泰治郎 信州大学, 学術研究院農学系, 助教 (60462511)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 雪崩 / 南アルプス / 倒木 / 空中写真 |
研究実績の概要 |
2017年2月に南アルプス小仙丈ヶ岳北東斜面で雪崩による倒木が発生した。現地調査や現地観測を基にシミュレーションによって雪崩の流下範囲と速度の分布を再現し,幹折れ木調査に基づいて検証した。また,倒木にともなう地表被覆の変化に着目し,雪崩の流下範囲と速度分布の変化を予測した。 まず,雪崩前後(2014年12月と2018年5月)の空中写真判読により,雪崩による倒木範囲を推定した。次に,雪崩跡地において幹折れ木の直径・破断高さ・樹種を調査し,立木を曲げ破壊するのに最低限必要な雪崩速度を求めたところ,雪崩速度は15~60 m/s(平均24 m/s)と推定された。 2017年に発生した雪崩の速度・層厚の分布をシミュレーションにより推定した。その際,雪崩の発生区は幹折れ木の分布調査と空中写真判読から標高2,500 mを発生区の下端とし,遷急線の存在する標高2,750 mを発生区の上端として設定した。森林域は空中写真判読に基づいて設定し,スラブ厚は0.6~1.5 mとした。その結果,スラブ厚が1.0 mのとき,計算された流下範囲が実際の倒木範囲を概ね再現しており,その場合倒木範囲の雪崩速度が15~20 m/sとなり,幹折れ木から求めた雪崩速度と同程度となった。 倒木にともなって,その後の雪崩の挙動がどのように変化するか,どの程度の森林被害が起こるかを検討するために,2017年の雪崩前・後の森林分布を与え,それ以外の条件は同様として雪崩シミュレーションを行い,速度分布を比較した。その結果,20~25 m/sの速度分布が下流に250 m伸び,林道まで到達すると推定された。このことは,森林被覆が失われることにより,将来的な雪崩の速度や到達範囲が変化し,倒木による林道遮断や倒木が河道に到達することによる二次的な災害が引き起こされることが示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに,2017年に発生した雪崩の跡地を対象として,対象地域の航空機レーザ測量成果を入手し,樹冠モデル(DCHM)に基づいて樹木位置図と樹高分布図を作成している。また,雪崩発生前後に撮影された空中写真を判読するとともに,雪崩跡地において倒木サイズと分布の調査を行い,雪崩による倒木の空間分布(≒雪崩の流下経路),樹種,倒木のサイズ(破断高さ・直径・樹高),現存する森林の分布を把握できている。 また,雪崩の規模を決定する主要な要因である積雪深を把握するために,積雪深および気象因子を現地観測している。積雪深は定点カメラによるインターバル撮影と超音波積雪深計による連続観測,ロガー付き温度計による気温・地温観測,日射計・風向風速計による全天日射量,風向・風速観測,ライシメータと転倒ます雨量計を用いた融雪水量の観測を試みている。積雪期間(11月から5月末)を通して観測することが求められるが,2021-2022年のシーズンの観測では,転倒ます雨量計の記録が途中で途絶えたり,積雪深が積雪深計の設置位置を越えて最大積雪深が記録できなかったこともあり,完全な積雪・融雪データが得られていない状況にある。そのため,2022年は転倒ます雨量計のデータロガーを変え,積雪深計の設置位置を高くするなど,改良を加えて観測を実施した。
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今後の研究の推進方策 |
現行の「雪崩シミュレーション」が抱える課題の一つが,山岳域の積雪深の予測精度が低いことである。「積雪深」や「雪質」は雪崩の発生/非発生や雪崩の規模に影響する要素として無視できないにもかかわらず,山岳域では冬期の気象観測がほぼ行われていない。そこでAMeDASの気象観測データを利用して山岳域の積雪深を予測できるよう,雪崩発生域において気象・積雪深・融雪水量を観測し,山岳域の積雪深予測の検証に利用する。これにより,気象観測が困難な山岳域でも比較的連続観測が容易な気温等を観測することで,山岳域の積雪深予測の精度がどの程度向上するかを検討する。 山岳域の積雪深予測手法を用いて,AMeDAS伊那の気象データが利用できる1993年以降の南アルプスの積雪深を推定し,雪崩と倒木が発生した2009年・2014年・2017年の積雪規模を評価することで,雪崩の発生要因を検討する。
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