研究課題/領域番号 |
21K04608
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
北川 暢子 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 特任助教 (20727911)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙線イメージング / 土木構造体 / インフラ点検 |
研究実績の概要 |
現状だと点で観測するボーリング調査、表面から2m程の地中の状態を知ることができる地中レーダーの2つが、堤体内部の状態を知る手法である。しかし、堤体の厚さは大きいもので10mほどあり、上記の手法だと面積的にも深さ的にも十分な探査範囲であるとは言えない。そこで、宇宙線の中でも高い透過力を持つミューオンを利用して、堤体内部の密度分布を知ることが可能な宇宙線イメージングを国内で実施した。 新潟県の某所にある樋管は、40~50年前に設置された旧樋管と2020年に新設された新樋管とが並行して存在する。この2つの樋管内に原子核乾板という荷電粒子を記録するフィルム上の検出器(防水性有り、電源不要で観測可能)を設置し、2021年11月から宇宙線の観測を行ってきた。その結果、新樋管の周辺にハンドホールという断面積にして1平米ほどの空間が、ミューオンのデータからも観測することができた。この空間については、全く知らない状態で観測を開始したため、宇宙線イメージングが堤体内部の密度分布を知る手法の一つとして有効であることを実証できたと考えている。そのため、この内容を論文にまとめて発表する予定である。 研究会等での交流では、異分野の土木工学の研究者の人達も、この手法の有用性について期待をしていることが分かった。 また、この観測は現在も実施中であり、1年を通して季節ごとの密度分布の違いや新旧樋管のデータを比較することで、40~50年経った土構造物の変化を知ることが可能であると考え、現在解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実際の堤防の内部を知る事は重要であり、しかも時間経過した旧樋管と近年新しく設置された樋管との比較をすることが出来る、大変貴重な観測ポイントで宇宙線の観測を実施することが出来ている。これまでに1年以上のデータを蓄積しており、今後そのデータ解析を進めて、得られた情報を土木工学の研究者や国交省と共有することで、新たな知見が得られると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
まず、これまでの新樋管の上部を観測したデータにより、樋管の施設に付帯するハンドホールの大きさや場所が特定できたことについて、宇宙線イメージングの手法が堤体内部の構造調査に有効であると実証できたこととして論文にまとめ、投稿する予定である(執筆中)。 また、これまでに新旧樋管内部で観測してきた堤体内部を透過してきたミューオンのデータの解析を進め、①季節ごとの密度分布の違いや、②同じ観測のタイミングでの新旧樋管の違いを見る。まず、①により、雨量と堤体内部への水の浸透状態の関係性をミューオンのデータから知ることができるかを検証する。②により、ほぼ同一の土質構造と思われる新旧樋管のデータを同じ観測期間で比較することにより、(A)40~50年経ったことによる樋管上部の土構造に変化があるか、(B)法面の被覆物の違いによる密度分布の違いなどが分かるかどうかを検証する。これらのことについても、ミューオンのデータが堤体内部の健全性評価につながったり、地盤工学や河川工学の分野にも新たなデータとして付与することができると判断した場合は、論文投稿を行う予定である。また、国交省などに堤防の健全性評価手法の一つとして、宇宙線イメージングについて提案していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
これまでに購入してきた物品や備品を繰り返し使用可能なものについては、出来る限り新しいものを購入せずに再利用しているため。
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