最終年度は、本研究課題によって収集・整理した自然災害に関連する物語、および地域空間の物語性をふまえた地域防災の実践活動の成果を取りまとめ、特に地域で語り継がれる「神」と「妖怪」を活用した防災論を書籍として取りまとめ、出版した。論じているのは、古来、人間が自然の脅威に対して抱いてきた畏怖の念と謙虚な姿勢を、どのような理論とプロセスにもとづいて、現代社会の地域防災のなかに位置づけるかということである。 キーコンセプトは「みえないリスクへのそなえ」である。このコンセプトは特に、自然災害に対して、平常時から日常の風景に隠れているリスクのポテンシャルを気にかけることの重要性を表している。本研究課題の取りまとめとして、日本の国土のなかで語り継がれる神と妖怪に着目し、科学的な分析・アプローチとは異なる視点から人びとが自然災害リスクを認識し、「語ること」と「祈ること」を通した地域防災活動の実践に関する知見を提示した。成果の要点は以下の3点である。 1点目は、平常時には潜在している風景のなかの多様なリスク要素を認識することについての理論的考察である。特に、日本古来のリスク概念である「わざわい」という言葉に着目しながら、その現代的意義にを提示した。 次に、古くから日本人が語り継いできた妖怪が多様な自然災害への教訓を含んでいることをふまえ、妖怪を知的資源として活用した新たな防災教育の枠組みを提示した。この成果は、災害が発生してから時間が経過することで、災害体系による語りが縮退するという現状において、その解決方策の一つと位置付けることができる。 最後に、地域の神社や地名由来に潜在している災害リスクに関する重要な情報を、地域住民自らが掘り起こし、地図などの形で外在化し、さらに地域防災でそれらの物語を活用していくための具体的方策を示した。
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