観測記録に基づく経験的な地震動予測において、継続的な強震観測により蓄積されている強震観測記録が活用されている。巨大地震や断層ごく近傍地震動記録などの稀な記録は数が極めて少ないため、予測精度向上のためにはシミュレーションによる波形データの適切な利用が有効である。また、特定地点や構造物における地域特性を反映した信頼性の高い地震リスク評価のための入力地震動についても、想定される地震の断層位置形状や破壊様式といったシナリオの不確かさに起因する入力地震動のばらつきを考慮したシミュレーション波形データが有効である。このようにシミュレーションによる地震動波形データの適切な利活用が期待されるが、断層モデルや複雑な地盤構造の不確かさを考慮した大量の地震動シミュレーションを一つ一つ行うことは現実的ではない。 本研究では、入力地震動波形群の多様性確保を目的として、一定数のシナリオに対する既存の地震動シミュレーション波形を用いて、その集合から新たな地震波形データの集合を生成することを試みた。具体的には、テスト用シミュレーションデータセットを使って、時刻歴波形データの時間・周波数領域における特徴量としてWavelet Packet係数を算出し、Wavelet Packet係数を低次元化した潜在変数を確率変数ベクトルとみなして確率分布を推定しすることによって、元の波形データの集合の特徴が持つ分布に従う新たな波形データのサンプル生成を行った。 2023年度は、より適切な分布を持つ入力地震動波形群を生成することを目的として、本手法における特徴量が従う確率密度関数を仮定するにあたり、Variational Auto Encoder (VAE)による正規分布と経験コピュラに基づく分布の2通りを検討し、生成された地震波形データ集合の特徴の違いを考察した。
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