研究課題
本年度は近似結晶試料RCd6 (R:希土類)について超音波計測を実施し、主要弾性率の温度および磁場変化から弾性特性、ならびに低温の電子状態について明らかにした。GdCd6では低温領域で観測される逐次磁気転移に伴う弾性異常を観測し、弾性特性の観点から温度磁場相図を作成した。本系は希土類4f電子の軌道角運動量が消失した系である。磁気転移の起源はGdイオンから生じるJ=S=7/2の磁気モーメントが生成していると考えられる。非常に大きい磁気モーメントでスピン軌道相互作用に起因した磁気異方性は期待されないにも関わらず、今回決定した温度磁場相図は非常に複雑なものである。単結晶とは異なる近似結晶特有の結晶構造に起因しているのかも知れない。また、別の希土類元素を含むTbCd6についても超音波計測を実施し、主要弾性率の温度および磁場変化から弾性特性、ならびに低温の電子状態について明らかにした。Gd系と同様に低温領域では複雑な複数相転移を示す。興味深い点は、全角運動量量子数の異なる系にも関わらず、有限の軌道角運動量を有するTbCd6の温度磁場相図はGdCd6のそれと類似しており、複雑な磁気相図の根底に近似結晶(構造特性)に起因した電子状態が実現していることを仄めかしている。他の異なる希土類系について、今後は系統的に深掘りした研究を推進する予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
近似結晶試料RCd6 (R:希土類)は比較的大きいサイズの単結晶育成が可能であり、超音波計測も実施しやすい環境にある。また比較的高い温度で相転移も出現するため、当初の予定以上に超音波計測の実施が進捗した。
今後は、他の希土類元素を含む近似結晶試料RCd6 (R:希土類)について系統的に同測定を実施し、本系の弾性特性から温度磁場相図を作成し、更なる近似結晶の電子状態について知見、理解そして学理構築に努める。
covid-19の影響および寒剤(ヘリウム)の高騰に伴い、当初の計画が実施できない状況に陥り、次年度へ繰り越すことにした。
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巻: 6 ページ: 9926-9932