研究実績の概要 |
一軸磁気異方性を有する強磁性金属の有限温度磁気特性を統一的立場から明らかにすることを目的として,我々は磁化 M と帯磁率 χ,結晶磁気異方性定数 K の温度依存性を微視的立場から記述した.計算模型としては,二次元正方格子上に単一軌道強結合模型を考え,これに半古典s-d相互作用とラシュバ型スピン軌道相互作用を加えたものを採用した.計算手法は線形応答理論理論に基づくグリーン関数法を用いた.また,有限温度の効果は主に交換磁場の横揺らぎに起因して生じるものとし,これをコヒーレントポテンシャル近似 (CPA) の範囲で取り込んだ.今回我々は,上記の M,χ,K に対して,全温度領域で有効な微視的表式を構築し,かつ実際に数値計算することによって実行可能性を示し,以下のような知見を得た.(1) ストナー理論に比して十分現実的な値のキュリー温度を得た.(2) 1/χ の温度依存性は強磁性相ではほぼ一定であるが,常磁性相ではほぼ線型に立ち上がることを示した(キュリー=ワイス則).(3) ただし強磁性相においては,バンド幅の変化に対して 1/χ の温度依存性は顕著に変化する: 遍歴電子極限においては 1/χ∝M^0に近いが,局在性を上げていくと M のベキが上昇していくことを示した.(4) 同様に,遍歴電子極限に対して K∝M^2 が得られるが,局在性を上げていくとベキが上昇していくことを示した.注目すべきは,単純なスピン模型から予想される K∝M^3 の傾向よりも高いベキが現れる点である.仮にこの結果をスピン模型から理解しようとする場合,1イオンまたは2イオン異方性項だけでは不十分であり,両方同時に考慮する必要があることも示した.
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