研究課題
希土類永久磁石の需要拡大に伴い、その高性能化と新たな磁石材料探索が求められている。材料の物性解明においては、近年飛躍的な成長を遂げている計算科学的手法が有効であると考える。また、磁石内部に存在する界面近傍では歪んだ原子構造を取り得ることが、実験と理論計算により確認されており、この歪んだ原子構造は電子状態を劇的に変化させ、磁石の性能指数である保磁力に影響を及ぼすことが示唆されている。そこで本研究では、永久磁石界面構造および磁性状態に関する研究と合金磁性に関する第一原理計算を実施することで、磁石材料の高性能化に向けた貢献を目指す。特に、近年目覚ましい発展を 遂げている機械学習の活用も検討し、効率的な磁石材料界面の計算を検証する。本年度は、以下2つの内容を学術誌に投稿した。(1) 日本磁気学会会誌「まぐね」の特集「軽元素を利用した磁性材料研究の新展開」において、「電子論で探るNd-Fe-B磁石主相における軽元素の役割」というタイトルのトピックス記事を投稿した。2023年度の会報誌に掲載予定である。(2) 第一原理計算を用いて、化学合成により新たに発見された新奇磁性合金ナノ粒子の安定構造を明らかにすることができた。この磁性ナノ粒子の保磁力が向上する結果が得られているが、第一原理計算を用いた磁気異方性の計算から、異方的な構造変化以外にも添加元素も影響していることを示唆する結果が得られた。この内容は国際学術誌Nature Communicationsに掲載された。
3: やや遅れている
本年度は、第一原理計算を実施するための研究環境整備の一環として、クラスターマシンの購入と設置を実施した。今後も安定に運用・拡張できるよう設計を行った。安定した計算リソースを確保するために、次年度以降も、計算量を検証しながら必要に応じてクラスターマシンの増設を検討している。第一原理計算と機械学習を連動させるための公開プログラムの調査を実施し、いくつか候補を見つけることができた。並行して、希土類永久磁石内部に存在する仮想的な界面構造に対し、電子状態計算を進めるための収束の確認を実施した。界面構造は、ユニットセル内に存在する原子数が数百から千個程度と通常の第一原理計算に比べ多く安定した収束が難しいことが分かり、現在この理由を調査中である。次年度は、より小さなユニットセルを仮定した場合の収束条件の調査を進めながら、機械学習的なアプローチも交え検証を行う。合金磁性に関する研究も引き続き進めていく。
次年度以降も、安定な磁石材料界面探索を効率的に実行するための機械学習的手法の調査と妥当性の検証を行う。計算規模(ユニットセル内の原子数が1000個以上)では計算の収束が難しい兆候が見られたことから、計算の収束状況をモニターしながら現実的な規模を検討する。そして、磁石材料界面のモデル構造と界面異方性の評価に繋げる。また、磁性合金ナノ粒子に関する詳細な電子状態解析を進め、保磁力向上の起源を探る。
学会参加・発表のために算出していた旅費が、コロナウイルスのためオンライン開催となったため未使用分が発生した。次年度以降は計算リソースを確保するため、クラスターマシンの増設に計上することも検討している。
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Nature Communications
巻: 13 ページ: 1047
10.1038/s41467-022-28710-0