研究課題/領域番号 |
21K04632
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研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
東後 篤史 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主幹研究員 (10610529)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | フォノン / 格子熱伝導 / 第一原理計算 / 自動計算 |
研究実績の概要 |
第一原理非調和フォノン計算からボルツマン方程式の散乱項を計算することで、結晶の格子熱伝導率を高い精度で予測可能である。この手法を用いて、多様な結晶に対して系統的に格子熱伝導率を数値計算し、熱電変換材料として期待できる低熱伝導率材料を探索することを本研究の目的としている。大量計算を行うため、計算作業の自動実行と、大量のデータをワークフローの時系列も含め整然と保存するための環境の構築が必要である。また、この手法は第一原理非調和フォノン計算に大量の計算機リソースを必要とするため、計算の軽量化も課題である。 令和3年度は、格子熱伝導率の自動計算環境の構築を行なった。具体的には自動計算のためのオープンソースのフレームワークであるAiiDA上で実行するためのデータフローデザインとワークフローの開発を行なった。ワークフローは結晶構造や数値計算の最小限のパラメータを入力とし、(1)第一原理計算、(2)原子間の力の定数の計算、(3)格子熱伝導率計算の3つを順に実行する。利用時の柔軟性と実装のテストのために、それぞれ独立したワークフローとしてデザインした。3つのワークフローをまとめたワークフローを用いることで格子熱伝導率が計算される仕組みとした。ワークフロー内で生成されるデータの中から、論理的に最低限必要なデータを選別し、それらがグラフとして矛盾なく接続するようデータフローデザインを行なった。物性研究のための非調和フォノンに関する詳細な解析などに対応できるようワークフローの入出力データノードを定義や、スーパーコンピュータなど現実に利用する計算機の制約のもとで安定した自動計算を行うための工夫など、本研究の課題に必要な機能の開発も行なった。計算の軽量化においては、軽量化手法の自動実行との相性を考慮しながら基礎的な手法開発及び実装を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
格子熱伝導率の自動計算のためのワークフローの開発が順調に進み研究利用可能なレベルに達している。ワークフローの最低限のテスト環境も構築できたため、今後の継続的な開発環境も整った。格子熱伝導率計算のための計算機シミュレーションソフトウエアが自動実行に耐える堅牢性を持つよう、基礎的な数値計算手法の開発や実装を行なった。これらをまとめて、自動計算ワークフローを用いて、いくつかの結晶に対して熱伝導率計算のベンチマークテストを行い正常に動作していることを確認している。計算軽量化のために、圧縮センシングや差分法を用いた力の定数の計算手順と手法を計算機シミュレーションソフトウエアに実装し、それらが動作することを確認した。また、計算時間や計算精度の検証をいくつかの結晶に対して行ない、計算軽量化に対して大きな効果が得られることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定通り、多様な結晶に対して、第一原理格子熱伝導率計算を行い、格子熱伝導率計算データベースを構築する。得られたデータと機械学習を用いて、多様な結晶を特徴によって分類し、低格子熱伝導率を示す傾向をもった集団を抽出し、それらに対して微視的な観点から格子熱伝導機構の系統的理解を行う。令和4年度は、自動計算ワークフロー内の計算軽量化手順の最適化を行うとともに、格子熱伝導率のハイスループット計算を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体の逼迫により当初予定していた性能のワークステーションの入手が困難となり購入を見送った。また、データストレージやコンピュータネットワーク機器などに故障が発生しなかったため、消耗品の購入の必要が生じなかった。会議などは全てオンラインとなったため旅費が発生しなかった。 令和4年度は、自動計算と力の定数の計算を行うためのワークステーションの購入を予定している。共同研究のため、ロレーヌ大学、ウイーン大学、京都大学へのための経費を計上している。加えて、計算機関連の消耗品及び、学会参加や論文出版など成果発表のための最低限の経費を計上する。
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