第一原理計算を基にした格子熱伝導率の計算は、高い予測精度を持つ計算手法であるが、現在でも大きな計算コストが必要であり、数千もの多様な結晶に系統的に適用することは容易ではない。この問題を解決するため、計算時間が最もかかる三次の力の定数の計算量を削減することが必須である。今年度、三次の力の定数を大幅に削減できる計算手法とワークフローを開発することに成功した。まず、射影行列を使用して、第一原理計算の結果から力の定数を対称化しながら計算する手法を開発し、ソフトウェアに実装した。初期の開発段階では、計算時間と必要な計算機メモリの量が膨大であったため、ハイスループット計算に適用するためには、計算リソースを実用的なレベルまで削減する必要があった。この問題を解決するために計算手法を研究し、最終的に計算時間とメモリ使用量を大幅に削減した。次に、第一原理計算から格子熱伝導率を計算する際に、ポリノミアル機械学習ポテンシャルを経由することで、格子熱伝導率の計算精度をほぼ損なうことなく、必要な計算コストを大幅に削減するワークフローを開発した。第一原理計算に適用する結晶構造モデルとポリノミアル機械学習ポテンシャル間で最適なパラメータを探索した。開発した圧縮手法を103種類の二元系結晶に適用し、実際に大幅な計算コストの削減が可能であることを確認した。研究期間を通じて開発した自動計算システムに、現在、今年度開発した圧縮手法を組み合わせて、数千の結晶構造に対して格子熱伝導率計算のための入力データセットの計算を行っている。また、これらのソフトウェア実装をオープンソースソフトウェアとして配布する準備を進めている。
|