準結晶は長距離の周期性はないが、規則性を持つという特異な秩序を背景に新しいカテゴリーの結晶として注目を集めてきている。電子状態については周期性がないため、いわゆる厳密な意味でのバンド構造を定義できないが、状態密度としては定義できる。電子状態の計測には光電子分光が最も強力な手法である。実際これまでに準結晶の光電子分光測定から擬ギャップの存在が示唆されてきた。(擬)ギャップが開くということは閉じているよりも系全体のエネルギーが低いことを意味する。そこで、この擬ギャップが準結晶の形成のしやすさの指標となりうる可能性を検証するために、準結晶とその類縁物質である近似結晶の擬ギャップの定量評価を目的に研究を行ってきた。 研究開始当初には反強磁性を示す近似結晶において、反強磁性温度付近から非占有電子状態側に急速に成長する状態密度を見出したが、これはエネルギー分解能の1/10程度の解析誤差でも生じうることがわかり、強い主張はできないことが分かった。その過程で2つのエネルギースケールを持つ擬ギャップがあることがわかってきた。擬ギャップの起源を定量評価のためには波数空間での測定が非常に有効である。前述の通り長周期構造はないため厳密な意味でのバンド構造は定義できないが、準結晶における擬バンド構造ともいえるような波数依存の電子状態の報告例はある。しかし単結晶の作成は困難であることから、顕微光電子分光の可能性を探ってきた。つまり、多結晶は小さな単結晶の集合であるため、適切な条件を整えれば角度分解顕微光電子分光測定が可能であろうということである。 最終年度はデータの解析を行ってきた。2つの異なるエネルギーを持つ構造があることがわかり、組成の違いにより片方は変化せず、片方は変化がみられることが分かった。他方で顕微角度分解顕微光電子分光測定の準備を行ってきた。
|