研究課題/領域番号 |
21K04637
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
實平 義隆 電気通信大学, i-パワードエネルギー・システム研究センター, 研究員 (10751373)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ペロブスカイト太陽電池 / 金属酸化物半導体薄膜 / 溶媒レス水熱合成法 |
研究実績の概要 |
本課題では、金属酸化物半導体膜の合成を水蒸気雰囲気下において試料表面に形成される水層を反応媒体として行い、基板上への直接形成することを目的としている。得られた薄膜は電子、正孔輸送層としてペロブスカイト太陽電池に適用し、低温プロセスにより作製した同太陽電池のエネルギー変換効率の向上を目指す。 前年に引き続き、酸化スズ膜の合成条件について検討した。従来行ってきた酸化チタン膜では前駆体として四塩化チタンを用いたが、同様に塩化物塩を前駆体として用いると、反応条件下の水蒸気雰囲気中での前駆体の安定性が高いため酸化物膜が析出しにくく、処理対象の基板外へと溶出する。そこで、加水分解性の高いアルコキシドを用いたが、長鎖アルキルからなる配位子が疎水性を示すことから反応液層が形成されにくく、潮解性を持つ塩化マグネシウムを添加することで前駆体膜へ親水性を付与した。ペロブスカイト太陽電池において、塩化マグネシウムは電子輸送層に導入することで酸化物半導体膜の導電帯準位を制御し、開放起電圧の高電圧化に寄与する材料としても用いられる。本検討により合成したマグネシウム添加酸化スズ膜では、未添加の場合より生成物の結晶性の向上や太陽電池特性の向上が確認された。 さらに非鉛系ペロブスカイト太陽電池への適用を踏まえ、ヨウ化銀ビスマスに適用するための材料として酸化亜鉛膜についても検討を開始した。まずは適用の可能性を探るため、水熱合成法により作製した酸化亜鉛ナノワイヤ膜を電子輸送層として太陽電池を作製し、酸化チタンを用いた場合と比較した。その結果、酸化亜鉛膜では、酸化チタン膜に比べて電荷の取り出し効率が優位であることが分かった。しかしながら、ホールブロッキング効果が低いため、開放起電圧が酸化チタンの場合の半分程度と低く、さらなる改良が必要であることが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
塩化マグネシウム添加スズアルコキシドの水蒸気下加熱処理による酸化物薄膜の合成について、これまで使用していた前駆体のテトラ-n-ブトキシドスズは、おりからの世界情勢の変化等によりメーカーが原料調達が困難とのことで購入不能となり、安定して入手可能なテトラ-t-ブトキシドスズを前駆体とする検討も行っていたが物性の違いから同様の酸化物薄膜の合成には適さないことが分かった。他社製の受注生産品のテトラ-n-ブトキシドスズを購入することができたので再現性の確認を行っているが、XPS、EDSなどによる元素の電子状態解析や膜の微量組成分析は試料が薄膜であるため得られる信号やその差異が小さく、追試と分析に時間を要している。 また、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、鉛を中心金属とした材料はその毒性や環境負荷が懸念されることから、代替材料として鉛に次ぐ高いエネルギー変換効率が得られているスズ系、銀ビスマス系の材料が検討されている。鉛系材料では電子輸送層として水蒸気処理法により作製した酸化チタン、および酸化スズを適用することで高効率化に有効であることが確認されたものの、スズ系材料ではこれらの金属酸化物では発電層中のスズの酸化状態を不均化させるとして有機材料を用いた逆構造セルが主流となっている。そこで本課題では、銀ビスマス系ペロブスカイトへの適用を目的とし、電子輸送層として適した酸化物半導体材料を探るための検討を行った。水熱合成法により長さの異なる酸化亜鉛ナノワイヤアレイ膜を合成して適用したところ、長さを約500nmとすることで光電流密度は酸化チタン多孔膜を用いた場合より増加することが分かった。しかしながら、開放起電圧は酸化チタン膜の半分程度となってしまい、高効率化のためにはペロブスカイト/電子輸送層界面におけるホールブロッキング効果の付与など検討しなければならいことが分かった。
|
今後の研究の推進方策 |
異種金属元素の複合化による機能性酸化物半導体膜の検討として、水蒸気処理法により異なる金属種を混合した酸化物半導体膜を作製し、ペロブスカイト層の電子特性制御との組み合わせにより太陽電池特性の向上を目指す。ここでは、酸化スズを主材としてAl、Zn、Ta、Inなどの添加について検討する。また、逆構造ペロブスカイト太陽電池の正孔輸送層となる酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化タングステンについても水蒸気加熱処理により調製し、その太陽電池特性を評価することで、様々な機能性酸化物半導体膜について本手法の適用範囲の拡大を試みる。 水蒸気加熱処理の際、試料の周囲に高温高湿度の環境を保つため、現行では少量の水と前駆体を塗布した基板を容器内に密閉し、150℃程度に加熱して反応を行っている。従来の水熱合成と同様に、高温高圧下でのバッチ処理となっているため、処理できる試料のサイズや量に制限がある。常圧の環境下で目的とする高温高湿度の環境を再現できれば、処理時間の短縮や処理の簡略化が可能となることから、大気圧下で反応容器内に高温水蒸気を送り込むことで処理を行う方法についても検討する
|
次年度使用額が生じた理由 |
前年度に引き続きCOVID-19の流行により大部分の国際学会がオンライン開催となり、旅費として計上していた予算がそのまま残る形となった。また、大学、研究室に同等の装置があったため、外部に依頼する予定だった測定や、装置の購入予定などを変更した。繰り越した予算は、ガラス基板の加工、太陽電池の作製工程にあると便利な機器類の購入に充て、効率的な材料開発を展開していく予定である。
|