研究実績の概要 |
本研究の目的はPr4Ni3O8及び(Ln,A)NiO2 (Ln=Nd,Pr, A=Sr,Ca)バルク体において高温超伝導を実現する事である。(Ln,A)NiO2は薄膜でのみ超伝導が発現する。 Pr4Ni3O8:超伝導化を目指したキャリア量調整の為、2つあるNiサイトの一方のみへの選択的元素置換によるキャリア量調整を以前より試みており、Co, Ti, Crをドープした場合それぞれCo2+, Ti4+,Cr3+として存在することがX線吸収微細構造(XAFS)実験よりわかっている。またXAFS結果の解析により意図した電子ドープではなくホールドープがされていることが分かった。 更にこれらの試料に対しゼーベック係数の測定を行った所、XAFSの実験結果と異なり電子ドープが示唆された。これら相反する実験結果を説明する電子構造モデルを提案した。 また、これらの試料に対し粉末中性子回折実験(NPD)を行った。ドーパント元素はいずれもNi(1)サイトを優先的に占有しているが、Ni(2)サイトにも数パーセント程度占有されてしまうことが分かった。このことから、完全な選択的置換は困難であることが示唆されたが、Ni(2)-O(2)平面を比較的クリーンに保つことに成功した。 (Ln,A)NiO2:本系が薄膜でしか超伝導を示さない原因として、バルク体ではNiO2面間に余剰酸素が残留しているためと推測している。前年度までに(Ln,A)NiO2においてLnのイオン半径が小さくなるにつれ(Ln,A)NiO2合成に必要な還元アニール温度を低くでき、より残留酸素を除去しやすくなることが分かっていた。しかし(Ln,A)NiO2の電気抵抗の振舞いはLnのイオン半径が小さい試料ほど半導体的傾向が強くなった。この原因はNiO2面のバックリングが増大したと考えられる。 両系においてバルク体での超伝導は実現しなかったが電子状態や結晶構造に関して多くの知見が得られた。Ni系酸化物超伝導体の研究が進めば、Cu系高温超伝導体と詳細に比較する事で高温超伝導機構の解明、更なる高Tc化の指針を得る事に大きく寄与する。
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