研究課題/領域番号 |
21K04643
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研究機関 | 大阪公立大学 |
研究代表者 |
芦田 淳 大阪公立大学, 国際基幹教育機構, 教授 (60231908)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 亜酸化銅 / 電気化学成長 / 価数制御 |
研究実績の概要 |
本研究では、電気化学成長(ECD)法によって太陽電池や光触媒へ応用可能な半導体である亜酸化銅(Cu2O)薄膜を作成します。ECD法は、原料の使用効率が高くかつ低消費電力でグリーンな製膜法です。またCu2Oは、人体に有害な元素や希少元素を含まず原料コストも小さいという、太陽電池などの大面積素子に適した化合物半導体の一つですが、半導体としての特性制御の難しさが課題です。 銅(Cu)の酸化は、+1価の銅からなる亜酸化銅(Cu2O)、+2価の銅からなる酸化銅(CuO)の順に進行します。しかし一般には一様に酸化が進まず、Cu2Oが支配的であっても他の2状態が必ず存在し、不純物が存在することに近い影響をおよぼすため、これらの種と量の制御ができなければ実用化は困難です。 これに対して本研究で用いるECD法は、水溶液中で生じる電気化学反応を利用します。電気化学反応では、電解液中に存在するイオン種が決まれば、理論的には液体ならびに結晶が成長する電極の状態によってその価数や酸化状態が一意に決定されます。特に電解液濃度、電解液のpHと電極に印加される電位が支配的条件で、電解液濃度を一定とした場合に他の二つのパラメーターを両軸にとって各酸化物種やイオンの価数が安定な領域の境界を示した電位-pH図が、各種元素に対して作成されています。生成条件の実際の境界は理論計算からずれることが多くあり、実用研究に向けては実験的な検証と補正が必須です。 本研究ではCuに対する電位-pH図におけるCu2O安定領域の境界を明確にし、それを跨ぐように成長条件を行き来させることで、両側の物質、すなわち0価のCuとCu2+からなるCuOを任意の割合で含んだ状態を実現する事で、Cu2Oの電気伝導特性を制御する事を目的とします。 現在までに、pHを一定とし印加電位を変化させてCu2Oを主相とする薄膜を得ることに成功しています。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
得られた薄膜の電気伝導特性を評価し、成長電位との相関から本研究の当初の予測が正しいことを検証する予定であったが、下記の課題が生じ進捗が遅れている。 第一の課題は、XRDパターンから見る膜の再現性の低さである。考え得る原因の一つに電解液濃度の初期値がある。電解液は複数の濃度の水酸化ナトリウム水溶液(NaOHaq.)で目的のpHに滴定する。その過程で全液量が不統一となりCu2+濃度が変動する。これに対し各濃度のNaOHaq.滴下量を厳密に固定し、最終の稀薄NaOHaq.でのみ滴定することとした結果、計算上の濃度のばらつきは3%以内となり、電位-pH図の濃度依存からみて影響が無視できる範囲になった。 一方成長速度も膜特性に大きく影響する。成長速度は電解電流に、また電解電流は電界電位、溶液濃度、光環境等に依存する。暗中で温度制御も厳密に行ったが、結果は変わらない。電解電流を変化させる事は本研究の発想の根源であるためその影響は避けられないが、同一電位での成長のばらつきの原因にはならない。一方、印加電位、電流を厳密にモニタしたところ非定常のノイズがあり、それは電源とアースの両方から影響を受けていた。現在、ノイズフィルターならびにアースの方法を検討中である。一方で、成長速度の相違を避けられない本手法では結果の解釈の厳密性を欠くと考え、定電流成長に実績がある酸化亜鉛(ZnO)を新たに対象物質に加えることとした。ただしこの系ではZnOは液中では安定状態ではなく固液界面で準安定に成長することから、評価には注意が必要であり、定電位成長のCu2Oの結果を合わせた慎重な検討が求められる。 第2の課題は、ITO基板とCu2O薄膜の剥離にある。電極であるITOとCu2Oの間では剥離せず、ITOとその基板の硝子との間で剥離することが多々あった。ITOは市販品のため基板との密着性にばらつきがあることも考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画の進捗の遅れを回復すべく、まず課題である電源系のノイズ対策を確立する。フィルターの選定、アース状態の検討に加えて、ノイズループを排除するなどの検討を行う。 その上で、Cu2O作成の際の電界電位のステップを小さく厳密に設定する。Cu2Oが最安定となる電解電位の幅はおよそ+0.2V(vs. Ag/AgCl)と計算される。これまでは0.05Vごとに電位を変化させ、貴な側ではCuOが、また卑な側ではCuが膜中に存在することをXRDにより確認した。しかしXRDで異相が確認出来るほどに条件を変化させず、わずかな異相が存在して電気伝導特性にのみ影響するような境界条件の探索が本研究の目的である。そのためには、電位設定のステップを小さくしなければならないが、同時に他の条件の厳密な設定も必須となる。その観点からもノイズ対策がまず急がれる。 具体的な作業としては、従来通り最も結晶性が高いと考えられる条件、すなわち、Cu2+濃度0.1M、温度45℃、pH12.5を基準とする。電位は -0.3V vs Ag/AgCl を基点とし、まずこのより貴な方向、すなわちCu2+が安定な領域に近づけて、電気伝導特性の変化を見る。ただし前述のようにXRDで明らかにCuOの存在が認められることがない範囲とする。また逆に卑な方向に電位を変化させ、金属銅の存在が確認されない範囲で電解電位と電気伝導特性の相関を見る。これらの評価によって、電解電位による電気伝導特性の可能性を探る。 また、電気伝導特性評価のためには、膜を確実に剥離する手法を確立しなければならない。まず膜の剥離のための専用の治具を作製することで再現性の向上を図る。一方で基板との密着性の高い代替電極を探索するが、Cu2O膜への電子供給の際の界面障壁についても検討しなければならない。代替候補としては、密着性と化学的安定性の観点からAu/Ti/glassがある。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により参加を予定していた学会等の研究集会が全てオンラインになったため、旅費(当初予定額 500,000)が全学未執行となったことと、研究進捗に遅れがあり、予定していた評価用部材棟を購入していないことによります。
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