本研究は、過去のZnOの電気化学成長に関する研究で電解電流のON/OFFを繰り返し、そのデューティー比を変えることで結晶中の欠陥濃度を制御できる可能性を見いだしたことに端を発する。これを太陽電池応用に有望な亜酸化銅(Cu2O)に応用し、ON/OFFではなく安定物質の異なる電位領域を行き来させる事で新たなキャリア生成の実現を目指した。 昨年度までは、この当初の目的に従ってCu2Oのn型化を目指し、製膜中にCu2OとCuOが安定な領域を行き来するように電位を変化させてきた。電解液濃度の再現性や外来ノイズその他多様な障害は、製膜装置や周辺環境の改善により逐次克服できた。しかし、同一条件で電位を変動させて作成した酸化銅薄膜の結晶性や成長速度に再現性が確保できず、電位変化条件による影響を評価出来ないという、非常に大きな課題に直面した。 Cu2OとCuOが安定な領域は、計算上(電位-pH図上)は、pHと電位に独立に依存する。電位をCu2O生成領域で一定にした場合には得られた薄膜の再現性は確保できていたが、製膜中に電位を変化させるとその再現性がなくなった。電位を変化させると(1)電解電流密度も変化して成長速度が変わる、(2)反応速度の変化により成長最表面での原料イオンの消費と供給のバランスが変化し、一時的に局所的なpHが変動する、が考えられ、その変化が一定していない可能性がある。特に後者は電解液の不作為の揺らぎに影響を受ける。そこで最終年度は方針をやや変更し、容易に固定できる電位は常に一定として、pHの違いによる成長の変化を検証し、成長最表面におけるpHを変化させる事でCu2OとCuOが安定領域協会を横断させて成長が可能かどうかの検証を行った。その結果、当初の目的であったキャリア評価には至らなかったが、電位、pHやそれ以外の多くの成長パラメータが複雑に相互に影響していることが明らかになった。
|