本研究では、粉末やナノ構造体の代わりに、エピタキシャル薄膜を半導体ガスセンサ母体材料として用い、添加不純物の酸性度・塩基性度とガス・センシング特性の関係を明らかにし、多様なガス種に対応できるガス選択性に優れた半導体ガスセンサを開発することを目的としている。そのため、本研究では、膜厚、面内粒径、基板とのエピタキシャル関係が同じである酸化物薄膜上に、様々な種類の酸化物あるいは金属粒子を蒸着してガスセンサを作製し、その蒸着粒子種とセンシング特性の関係を調査することが主な実験となる。 2023年度は、パルス・レーザー・デポジション法でエピタキシャル成長させた酸化亜鉛薄膜上に、CaOやCo2O3などの不純物粒子を蒸着したサンプルを作製し、それらのガス・センシング特性を評価した。蒸着した不純物の種類によりエタノールとアセトンに対する応答性が異なり、添加不純物の塩基性度が高くなると、エタノールに対するガス選択性が向上する傾向が確認された。 上記の結果は、前年度までに得られた結果とよく整合しており、添加不純物の酸性度・塩基性度が、半導体ガスセンサのガス選択性に大きく影響するキー・ファクターであることを示している。本研究で明らかになった、添加不純物の酸性度・塩基性度とガス・センシング特性の関係は、様々なガス種に対応できるガス選択性に優れた酸化物半導体ガスセンサの実現に大きく寄与すると考えられる。 また、エピタキシャル薄膜型半導体ガスセンサは、コストや感度などの面から、これまで酸化物半導体ガスセンサとしての研究はほとんどなされていなかった。しかし、膜厚を10nm程度まで薄くすることによりセンサ応答値が劇的に向上することが本研究で明らかになった。本成果により、エピタキシャル薄膜でもガスセンサへの応用が可能であることが示された。 今年度の成果は5件の学会発表、4件の論文発表として社会に公表された。
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