研究実績の概要 |
液晶プロジェクター用のレンズ,フィルターのように,厳密な偏光制御をともなう光学ガラス素子では,極めて小さな応力誘起複屈折性(ゼロ光弾性)が必須な機能である。ユビキタス元素を用いた無色透明な酸化物ガラスの提案,複雑な組成によらない低光弾性・高屈折率性の発現と検証,ガラスの微細構造に立ちかえった機能性の解明を行った。ガラス溶融中の電気炉内の酸素分圧のその場測定を行い、大気酸素濃度(0.2 atm)と比べて低い酸素分圧中(0.06 atm)でガラスを再現性良く作製できることが分かった。低酸素分圧で作製されたユビキタス酸化物ガラスは、汎用元素(Ca, Zn, Sn, P, O)のみで、高屈折率性・低光弾性を有しており、これまでに有害な鉛を高濃度に含んだ状態でプロジェクター用のレンズ、フィルター素子として用いられてきた光学素子を一変できる性能を示している。 2021年度に実施した研究内容には、酸素分圧を下げなければ酸化する、Sn2+を含んだガラスの作製について、非常に画期的かつオリジナルな作製プロセスが含まれている。ありふれた元素で、実際の工場において鉛を用いず、雰囲気制御も必要なく、一度に大量にガラスが作製できる。工場レベルへスケールアップされたガラスの生産プロセスの最適化の例を提示でき、産業界へ成果を還元できる可能性がある。そうすることで、元素選択と構造特異性に関する科学的根拠を提示し,ゼロ光弾性,無色透明,有害元素フリーで持続可能な光学素子の開発につなげることができる。
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