研究課題
これまでに我々は、液-液界面析出法を用いて様々な種類のファイバー状のフラーレン溶媒和結晶、すなわちC60ナノウイスカー(C60NWs)を育成し、バルク結晶にはない大きな弾性変形を示すことを明らかにしてきた。今年度は、C60NWsの中でも特にm-キシレンで溶媒和したC60NWsに注目して、加熱による力学特性の変化を調べた。結果として、大気中200℃での加熱処理によってm-キシレンの溶媒が蒸発した結晶では、結晶構造が純粋なC60バルク結晶と同じ面心立方構造(FCC)をとり、弾性限界ひずみが大幅に減少することが明らかとなった。さらに加熱温度を上げて大気中300℃で処理すると、C60のケージが破壊することが分かった。一方で、結晶構造はC60が破壊しているにもかかわらず、FCC格子が保持されておいることが分かった。また、ファイバー状の結晶外形も保持されていることが分かった。さらに、驚いたことに、力学特性つまり弾性限界ひずみが大きくなり、元々の溶媒和結晶よりもさらに大きな値を示すことが分かった。ナノインデーテーションによる複合弾性率や硬さにおいても、同様な傾向を示すことが分かった。特に、硬さに関しなは大きな増加が観測された。また、結晶の深さ依存性からは表面と内部では力学特性の違いも観察された。以上の結果から、加熱処理によって形成されたC60ケージの破壊したファイバー状結晶体は、優れた力学特性をもつ新たな結晶体の形成を意味するものである。今後は構造解明により、そのユニークな力学特性のメカニズムを明らかにしたい。
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