研究課題/領域番号 |
21K04655
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
山本 崇史 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 講師 (40532908)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ナノシート / 磁気特性 / 電気化学 / 電気伝導度 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、次世代スピントロニクスの基幹材料として有望視されている2次元磁性体ナノシートに関し、大量合成手法の確立に加え、磁性パラメーターの獲得を目指す。具体的には、酸素や水に対して比較的耐性があり、磁気転移温度が比較的高い2次元磁性体であるFe3GeTe2, MPS3 (M: 遷移金属イオン) などを探索対象とする。2022年度は、前年度に引き続いて、磁性ナノシートの母物質として鉄リントリカルコゲナイド (FePS3) を取り扱い、電気化学を活用したナノシート化を重点的に検討した。また、磁性ナノシートの母物質としてコバルト-アルミニウム層状複水酸化物(Co-Al LDH)を取り扱い、磁場存在下での伝導性の評価を開始した。 (1) 電気化学を活用したFePS3のナノシート化 前年度までの研究において得られているFePS3の比較的良質な層状結晶に対して、電気化学反応を利用して層状結晶の横方向サイズを大きく損なわないナノシート化の条件を探索した。特に2022年度は、ファンデルワールス層状結晶のナノシート化において用いられることが多い強塩基を電気化学反応系に添加し、改めて支持電解質と溶媒のスクリーニングを行った。しかしながら、これまでのところ、強塩基を添加した反応系においても電気化学反応のみでFePS3のナノシート化が進行する条件は得られていない。 (2) 磁場存在下でのCo-Al LDHの伝導性の評価 Co-Al LDHは強磁性を示すこと、層間距離に応じて磁気特性が変化すること、などが報告されている。したがって、Co-Al LDHをスピントロニクスへ展開することを視野に入れ、伝導度・電子輸送特性を評価することとした。実際には、さまざまな層間距離をもつCo-Al LDHの良質な結晶性試料を合成し、磁場存在下での電気伝導度の評価を開始した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題では、次世代スピントロニクスの基幹材料として有望視されている2次元磁性体ナノシートに関し、大量合成手法の確立に加え、磁性パラメーターの獲得を目指す。2022年度は、層状化合物として鉄イオンを含む遷移金属リントリカルコゲナイド (FePS3) の電気化学的ナノシート化に注力して研究を遂行した。 前年度までの検討に加え、特に2022年度は電気化学反応において、ファンデルワールス層状結晶のナノシート化に用いられることが多い強塩基などを電気化学反応系に添加して条件探索を進めた。しかしながら、強塩基を添加した反応系においても電気化学反応のみでFePS3のナノシート化が進行する条件は得られていない。 また、特異的な磁気特性を示すコバルト-アルミニウム層状複水酸化物(Co-Al LDH)に関する新たな研究に着手した。具体的には、Co-Al LDHをスピントロニクスへ展開することを視野に入れ、伝導度・電子輸送特性を評価することとした。実際には、さまざまな層間距離をもつCo-Al LDHの良質な結晶性試料を合成し、磁場存在下での電気伝導度の評価を開始した。 以上のように、FePS3の電気化学的ナノシート化に関する研究が当初の想定よりも時間を要しているため、進捗状況はやや遅れていると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2023年度は以下に挙げる項目に関して重点的に研究を遂行する。 2022年度までの研究において、鉄リントリカルコゲナイド(FePS3)層状結晶に関して、電気化学反応を利用したナノシート化を検討してきたものの、電気化学反応のみではナノシート化が十分に進行しなかった。そこで、2023年度は電気化学反応の際に外場、例えば加熱、超音波を穏やかに加えることによって、層状結晶の横方向サイズを大きく損なわないナノシート化の条件を見いだすことを目指す。首尾よくナノシート化が進行することが確認された場合は、原子間力顕微鏡による形状観察を通じ、ナノシートの横方向サイズを確認しながら反応条件を最適化していく。 また、コバルト-アルミニウム層状複水酸化物(Co-Al LDH)に関しては、磁場存在下での電気伝導度の温度依存性について、層間距離との関係性を明らかとすることに加え、良質なナノシート試料の電気伝導度も明らかとすることを目指す。
|